1.バイエルについて
日本初の西洋音楽教育はアメリカ人によって行われました。開国を迫ったのが黒船だったのですから当然でしょう。1879年に文部省により音楽取調掛が設置され、それが発展して1887年に東京音楽学校となり、さらに第二次世界大戦後、東京藝術大学となって現在に至るのですが、その初期の「お抱え外国人教師」だったメーソンが、アメリカからピアノの教則本として持って来たのが、バイエルだったのです。

バイエルを本の名前だと勘違いしている人が多いのですが、これは人名で、フェルディナンド・バイエルというドイツの作曲家です。活動した時代が19世紀のロマン派に当たっていて、この頃は上流階級の子女にピアノを習わせることが流行していましたから、そのために書かれた教則本です。

片手(右手→左手)の練習から始まって、両手の練習の初期には先生のパートが下に付き、連弾となり、豊かな響きがして楽しめます。最後には簡単な民謡や舞曲を演奏できるようになるはずです。

音楽として奇抜なところがなく、誰でも入りやすいことは確かですが、右手が旋律、左手が伴奏という曲がほとんどで、この本を了えた後、バッハなどの対位法(追いかけ)で作曲された曲に結びつき難い憾みがあります。

そのために、昭和40年代からバイエルを用いないピアノの先生方が増えてきました。代わりにフランスのメトード・ローズ、アメリカのトンプソンなども用いられましたが、少なくともモーツァルトやベートーヴェンのような古典派の作品を弾くためには、バイエルは不可欠と考えられます。

全曲でなく、抜粋して習えばいいでしょう。ピアノを習っていた人の共通する想い出というものがあるからです。また、小学校の先生になるためには、必ずピアノの実技の試験として使われます。

バイエルが終わったら、指のためにはハノンやツェルニーの練習曲、両手を独立させるためには、ハッハの「アンナ・マグダレーナのための小品集」、曲想のためにはブルグミュラーの「25練習曲」などが使われるでしょう。現代的な音の響きを会得するにはバルトークの「ミクロコスモス」(全六巻)がありますが、先生の的確な指導が必要だと思われます。

あまりに指の形や指遣いについてとやかく言うのも感興をそぎますが、確かに良い指の形からは良いタッチと音色が生まれますし、指遣い一つで弾けるものも不可能になったりします。ピアノの側に鉛筆を置いて、自分で注意の印を付けるようにしてください。ただし、あまりに乱暴に書いて、音符それ自体を消してしまうことのないように。

また、言わずもがなのことですが、楽譜はコピーしてはなりません。知的財産であることはさて措いても、本の形で持たないといずれは散逸してしまいます。それに何と言っても「教科書」なのですから。ご家族のお下がりも避けてください。失敗するところは人によって違うものです。


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