単独アーティスト契約
単独アーティスト契約は基本的にローン・アウト契約と同じだが、プロダクションを持っているのがアーティストではないため、いくつかの相違点がある。

1 、この場合は、アーティストとプロダクションの間の契約は名ばかりのものではなく、アーティストが自分自身と契約しているようなものとは違い、ちゃんと2者間で交わされたものである。つまり、ここには本当の交渉があり、すなわち、当事者同士の間で見せかけでないまともな取引があるということ-アーティストは、リリース保証とかいろいろな承認権など、レコード会社から引き出すようなことを相手に要求することになる。

2、アーティストとプロダクションとで熾烈な争いになる可能性も大きい。どういうことかというと、レコード会社はインデュースメント・レターで自分の権利を行使しようとするので、どうしてもそのインデュースメント・レターの内容が大きな問題となってくるのである。

なぜそうするのか? なぜアーティストはこんな契約を結ぶのか?レコード会社と直接契約した方がましなのでは?その答えは“そうかもしれない” といったところだ。プロダクション契約には、直接契約に比べてプラスの面もあればマイナスの面もある。アーティストにとっていいことかどうかは、その置かれた状況によるのだ。
マイナス要素をあげてみよう。

1、中間に入るプロダクションがロイヤルティの一部を取る。そうするために、プロダクションとレコード会社の間の契約では伝統的に、アーティストとの直接契約よりもやや高い(1%か2%) ロイヤルティに決められている。しかし、それでもなお、アーティストは直接契約よりも少ないロイヤルティしか受け取れない。アーティストが成功すればなおさらそうだ。その理由は、成功すれば、プロダクションとレコード会社の契約が上限までいってしまって、プロダクションとしてはアーティストの取り分以外に手をつけるものがなくなってしまうからである。

2、もしアーティストとアーティストのマネージャーがレコード会社と直接に接触していないと、アーティストのマーケティング、プロモーションなどのコーディネーションが簡単にいかなくなる可能性がある。

3、直接デイストリビュータを会計監査することに問題が生じる可能性がある。この契約では、プロダクションにはデイストリビュータを会計監査する権利がある。しかし、デイストリビュータとしては別々のふたりから会計監査を受けたくはないだろうし、アーティストとは直接契約を結んでいないので、アーティストに会計監査をやらせる義務などまったくないのだ。

4、プロダクションは、アーティストの音楽出版とマネージメントのどちらかあるいは両方を、レコード契約と同時に求めてくることが多いが、これがアーティストにとっては有利になることはほとんどない。

5、プロダクションがアーティストのお金を持って南方に逃げる可能だってある。

プラスの面は
1、プロダクションのオーナーがアーティストにとって有用な人物であることもある。たとえば、自分の会社と契約した新人アーティストとしか仕事をしない有名プロデューサーのプロダクションというのもあるのだ。その他にもやり手のマネージャーやプロモーター、あるいはたくさんの成功を収めている業界人の持っているプロダクションがある。モーリス・スターやデフ・ファムなどがその例だ。

2、プロダクションが取るのと同じロイヤルティ計算をしてもらえることもある(海外売上の削減率、フリー・レコードの上限枚数、留保金の制限などに関して)。もしアーティストが新人でプロダクションが老舗であれば、自分が直接契約するよりも有利になるかもしれない。

3.そしてこの最後の点が一番大きい。他に契約してくれる人がいないかもしれないということだ。
あらゆる点を考え合わせてみると、やはりこれはアーティストにとって理想のものではないが(素晴らしいプロデューサーとかの特殊な条件がない限り) 、どことも契約できず、アルバイトでビッグマックを売っているよりはましだろう。


複数アーティスト契約(レーベル契約)

“複数アーティスト契約”は、その名前のとおり、プロダクションがレコード会社と契約していろいろなアーティストを供給するというものである。

現在ではプロダクションがたいてい自分のレーベルを持っていることから、“レーベル契約” と呼ばれることもある。例としてはクウェスト・レコーズ(クインシー・ジョーンズ)やペイズリー・パーク(プリンス) などがあり、これらの場合、アーティストがプロダクションを持っていろいろなアーティストと契約し、ワーナー・ブラザースがそのデイストリビユータとなっている。だが中には、レコードからはプロダクションの姿が見えてこないので、大衆がその存在すら知らないようなものもあるのだ。単独アーティスト契約との違いデイストリビュータとの間で結ぶ複数アーティスト契約は、単独アーティストのローン・アウト契約とよく似ているように見える。だが……

1 、各アルバムのレコーディング資金に加えて、ある種のオーバーヘッドがプロダクションに支払われる。これはたいていアドバンスで、プロダクションのオフィス家賃、人件費、電話代、光熱費などに充てられる。さらに大きな契約や、ミニ・メジャーの場合には、これでマーケティングやプロモーションなどもまかなう。

2、契約期間はたいてい2年か3年で、デイストリビュータに1回かそれ以上の1年、2年、あるいは3年間の契約延長のオプションがある。

3、プロダクションが契約できるアーティストの数、およびデイストリビュータがそれらのアーティストを認めるかどうかは、交渉能力にかかってくる。新しいプロダクションの場合、契約が許されるアーティストの数は、契約期間中に1人か2人、ひょっとしたら3人までだが、もっと実粒のあるプロダクションであれば1年に2人から3人くらい契約できる。その数が多くなるにつれて、デイストリビュータは、契約の前に承認を得ることを求めてくるが、バーゲニング・パワーが自分にあれば、(a)承認を必要としない、あるいは(b) 1人か2人アーティストの承認を受けるごとに、1人は承認なしでアーティストの契約ができる権利を持つ、という交渉ができることもある。

4、 プロダクションが引き渡せるアルバム数の下限および上限も、1年につき何枚、そしてアーティストにつき何枚というように、両方であらかじめ交渉される。通常、その同意を条件としない限り、デイストリビュータはひとりのアーティストのアルバムが1年につき1枚を超えるのを嫌がるものである。

5、 アルバムといえば、このようなアイディアはどうだろうか。デイストリビュータと契約したプロダクションの、その契約の最後の年としよう。そこへ有望新人バンドと契約するチャンスが転がり込んできた。そこで、契約が終わる6カ月前に、このバンドのアルバムを引き渡した。そして、プロダクションはレコード会社にこう言うのだ。「こいつらをスーパースターに育て上げてください。そうすれば契約が切れる6カ月後には、次のうちのどちらかになります。(a)あなたとの再交渉で私たちの圧勝となる、あるいは、こっちの方がいいんですが(b)それまでの失敗で出した多額の欠損を残したまま、彼らを別のレコード会社に連れて行く。もちろん私はこのバンドのロイヤルテイをもらいますよ。それで前から欲しかった農場を買うんです」。ちょっと話がうますぎる? そりゃそうだ。契約では、プロダクションがデイストリビュータに引き渡すアルバムの下限を、各アーティストにつき規定している。普通は3枚から4枚。たとえ契約期間が終わってもだ。

6、 アーティストのレコーディング資金はあらかじめ決めておく。もし新しいプロダクションだったら、アルバムにつき15万ドルから20万ドルでやっていかざるを得ないだろう。実績のあるアーティストに関しては前もって別枠の交渉をすることも可能だ。その数字を越えるとなると、契約ごとに会社の同意が必要になる。つまり、もし一流アーティストと契約するチャンスがあったら、デイストリビュータと交渉の席について特別な調整をするということだ。

7、難しいことではあるが、レーベル契約では、レコーディングした曲の原盤(マスター)の所有権を得ることができる場合もある。しかし、たとえこのような状況にあっても、契約期間中には持てないのが普通だ。そうではなくて、デイストリビュータがそれを所有して、契約終了後の一定期間(通常は7年から10年くらい)、権利をプロダクションに譲渡することもある。その際デイストリビュータは、讓渡する前提としてリクープされていることを要求するかもしれない。そのような場合プロダクションは、リクープされていない欠損を支払えば早期の再譲渡を求めることができる権利を要求すべきである。


プロデューサー契約
プロデューサーとは何か?
レコード・プロデューサーの役割は、映画における監督とプロデューサーの役割を一緒にしたようなものだ。プロデューサーにはレコーディングを統括し、その創造性を目に見える形にする責任がある。

つまり、(a) アーティストから最大限のものを引き出す責任(曲を見つけ、選曲し、アレンジを決め、それに相応しいヴォーカルを乗せる、など) と、(b)すべてを管理する責任(スタジオを取り、ミュージシャンを雇い入れ、予算枠を守り、ユニオンへの報告書をまとめるなど)があるわけである。機械的な管理面(実際にミュージシャンを呼んだり書類を書いたりなど)はプロダクション・コーディネーターがやることが多い。言うならば雑用係である。


アドバンス
プロデューサーもアーティストと同じようにアドバンスをもらう。このアドバンスは、いかに計算されようとも、プロデューサーのロイヤルテイからリクープされるものである。その範囲は以下のようなものだ。
1、新人プロデューサー
1曲につき0から2,000~3,000ドル(アルバム1枚につき2万~3万ドル)。
2、 中堅プロデューサー
1曲につき2,000~5,000ドル(アルバム1枚につき2万~5万ドル)。
3、スーパースター・プロデューサー
1曲につき7,500~1万ドル以上(アルバム1枚につき7万5,000~10万ドル以上)。もし一流プロデューサーが一流アーティストを手がけた場合は、アドバンスが15万ドル以上になることも珍しくない。
プロデューサーの場合も、そのレベルに関係なく資金を設ける傾向にある。つまり、レコーディング費用とアドバンスを含むまとまった額のお金をプロデューサーが受け取るというものだ。


カップリングとコンピレーション
あるアーティストの作品を、他のアーティストの作品と一緒にしたものを作ることをカップリングと呼び、いろんなアーティストの作品を寄せ集めたアルバムをコンピレーションと言う

サンプラーというのはカップリングのひとつだが、カップリングの手法はずっと上のクラスにもあるのだ。これにはテレビ広告をされるようなコンピレーション・アルバムという類、さまざまな音楽をひとつにまとめた映画のサウンドトラック・アルバム、それにレコード会社がマーケティングのために作ることができるものなども含まれる。たとえば、最近ではパーソニックス(Personics) と呼ばれているものが市場テストにかけられている。このシステムは、いろいろなアーティストの曲を並べておき、それらの中から客に自由に曲を選んでテープを作らせるというものである。つまり、これもまたカップリングの一種である。


カップリングへの制限
アーティストは、常にカップリングを制限できるようにしておくべきだ。
それには、(1) 自分の曲が自分の嫌いなアーティストと一緒のレコードに収められたくないというアーティステイックな理由、そして(2)わずかなロイヤルティしか入らないのに自分の曲をへぼアルバムの目玉にしたくないという財政的な理由の両方がある。

ある程度のバーゲニング・パワーがあれば、契約期間中はこれを完壁に制限することができる。バーケニング・パワーがさらに大きくなると、リクープしていれば、契約後でもそれを制限できるし、強大な業界への影響力があればそれを永久に制限することも可能だ。かなりのバーゲニング・パワーがない限り、その制限は普通、アメリカ国内だけのものとなる。これらのコンピレーション・アルバムは、海外のテリトリーにおいては大きな収入源となり、ライセンスを受けた海外の業者はアーティストの契約のことなど考えず、自分たちの好きなような形でやりたがるものである。それに、たとえアーティストがこれを完全に制限する権利を持っていても、レコード会社は交通機関での使用 (飛行機の中でのプログラムなど) とサンプラーをアーティストの承認なしで作れる権利を要求してくるだろう。会社はこれをプロモーションとして考えているのである。

新人アーティストであっても、カップリングの曲数は制限できてしかるべきである。一般的な規定では、会社がカップリングできる曲は同じアーティストにつき1年に2曲まで、曲を入れられるカップリング・アルバムは2枚までとなっている。このようにふたつ制約があるのは、もし1年につき2曲だけという制限だけだったら、アーティストのヒット曲1曲だけを37種類の違ったコンピレーション・アルバムに入れることもできるからだ。