売れる歌、残る歌スマホ時代の「うたのチカラ」
昨今のJASRAC賞で上位を占める作品は、ゲームやネット配信、握手券などを通して収益を生み出しているらしく、これに対して「歌われる曲」「大人の歌」を目指すベテラン作家が違和感を覚えるわけです。

「どうしてあんな歌が受賞するのか?」
金賞の曲ともなると、著作権による1年の収入だけで都心の高層マンションが買えるといいます。1曲で、です。同業者として、「金賞」「銀賞」と聞くと平静でいられなくなるのでしょう。
では、JASRAC賞を受賞するために、「商売が上手」だったり「うまい戦略」があったりするのでしょうか。

「どうしてあんな歌が?」に答えるには、歌だけでなく、歌にまつわるビジネスや時代の状況を複合的に考えなければならないようです。中でも、スマートフォン(スマホ)と音楽との関係に注目する必要があります。スマホが1台あれば、いつでもどこでも歌が聴けて、他人と歌が共有できます。このスマホ現象の理解が不可欠に見えます。

JASRAC賞の正体
最近のJASRAC賞の個々の作品について、感情移入できません。「これが金賞です」「銀賞です」と言われても、よく分からない。自分の生活圏にない「遠い曲」と感じます。

JASRAC賞とは、データで弾き出した音楽の利用実績を評価する表彰制度です。前年度における著作物の使用料金の分配額が多かった順に「金」「銀」「銅」賞が授与されます。有り体に言えば、過去1年のうちに、JASRAC(日本音楽著作権協会)が管理する約700万曲のうち、最も多く使われた曲が受賞することになります。

コンピューターが弾き出すリアルカウント方式のため、「日本レコード大賞」などと違って、「人の判断が入る余地」がまるでない。単純明快です。
2014年の受賞曲は、金賞が「女々しくて」(詞・曲、鬼龍院翔。歌、ゴールデンボンバー)、銀賞が「ヘビーローテーション」(詞、秋元康。曲、山崎耀。歌、AKB)、銅賞がtime goes byとなりました。

金賞の「女々しくて」は、カラオケ部門で30・8%、ゴールデンポンバーの映像が入ったビデオグラム部門で12・4%、「ニコニコ」など動画のストリーミングサイトや「レコチョク」などスマホで曲のダウンロード(配信)が可能な音楽ダウンロードサイトなどでのインタラクティブ配信部門で17・2%を占めます。さらに、通信カラオケ部門で14・9%、放送部門が11・9%、ライブハウス、バー、レストランなどの飲食店や旅館、ホテルなどの宴会場など社交場部門が3・0%となっており、コンサート活動を示す上演や演奏会部門は2・8%にとどまっています。

銀賞の「ヘビーローテーション」は、ビデオグラム部門が多く、49・2%を占め、カラオケ部門(14・5%)、インタラクティブ部門21・2%)が続きます。放送部門は10・4%、社交場は3・4%にとどまりました。

銅賞の「time goes by」は、圧倒的に放送部門が多く全体の実に82・4%を
めます。携帯電話会社の短期集中のコマーシャルで使われたために、頻度が伸びました。


インターネット時代に
第1の理由。それは、歌が聴かれるメディアが、かつてはステレオ、ラジカセ、テレビ、ラジオなど音響関連機器だったが、今ではインターネットに代表されるITメディアであること。
「昭和」と「平成」の違いか、20世紀と21世紀の違いか、境界が明瞭ではありませんが、「旧」と「新」と呼べるような利用メディアの差があるように思えます。

新と旧の区分を示す現象として、音楽CDの売り上げが挙げられそうです。
各種統計によると、1997~98年頃をピークに生産金額と生産枚数それぞれが減少に転じました。1方で2000年以降では、音楽配信によるダウンロードが着実に増えています。
金賞の「女々しくて」は、演奏会、社交場(飲食店含む)、カラオケ、放送、音楽CDの部門(仮にこれらを「旧メディア部門」と呼ぶことにします)の合計は52・9%。「新メディア部門」(DVDなどのピデオグラム、通信カラオケ、インタラクティブ配信)は44・5%となります。「ヘビロテ」は、旧部門が31・5%、新部門が67・4%です。

売どれも、「新」か「放送」の比重が大きい点が特色ですが、同時に旧の割合がまだまだ高いように見えます。もしかして、「新」で売り出し、「旧」に乗って、「新」を刺激して、それが「旧」に乗ってという具合に、「新」「旧」双方の領域が循環し、相乗効果を生んで、全体を押し上げているのかもしれません。「女々しくて」は最初、テレビで紹介されたことで火がついて、インターネットで広まったらしい。

かりにテレビで「いいな」と思った曲に出会ったとします。かつてなら、苦労して探し出しましたが、インターネット時代には、歌へのリーチが早い。通信や圧縮技術の飛躍的な向上のおかげで、「音楽はネットで」が日常的になりました。ポップスでも演歌でも1曲は、ペットボトルのソフト飲料ほどの値段ですから、若年層でもそれほど蹟曙することなく買えます。しかも、お金を払って聴く人は全体として少なく、多くの場合、無料でストリーミングして音楽を聴きます。その場合、サイトのスポンサーが音楽の使用料金を支払うことになり、結果としてJASRACの著作権使用料にカウントされる。

JASRAC賞を取るための、「戦略」や「うまい方法」を考える前に、まずは「歌」の流通にインターネットが果たす役割が大きいということを知っておく必要があります。

「視覚要素」を無視するなかれ
第2の理由は、歌が画像と結びついて流通している点にあります。それを支えるのが、スマートフォン(スマホ)の隆盛です。今ではスマホがPCよりもごく普通に使われる時代です。音楽状況を考えるとき、「スマホ文化」「スマホ現象」に目を向けなければなりません。
スマホ文化、スマホ現象とは、映像が簡単に再現されることに加えて、歌と映像を簡単に持ち出せることだと思います。

視覚性に重点を置いたバンド、ゴールデンポンバーは「女々しくて」を演奏しますが、リーダーの鬼龍院翔以外は、ギターもドラムも「楽器演奏は身振り(エアー)だけ」というエアーバンドという手法で「演奏」します。覚えやすいメロディーと真似しやすい「振り」に特色があります。どこかコミカルであるため、人を呼び込みやすいということも要素として大きい。

次に「ヘビロテ」。歌いやすさのほか、「振り」やダンスが重要です。AKBは「総選挙」や握手券のことが取りざたされますが、アクションを重視するAKBの音楽やパフォーマンスはスマホがあってこそ、という側面を無視でき、この時代、流通という点で考えると、音楽は音楽だけで成立しません。「売れる曲」を出すには、「視覚的な要素を無視してはならぬ」というネットおよびスマホ時代の黄金ルールを無視しにくいようです。

遊びが必須
第3の理由は、音楽が遊びの道具になっている点にあります。映像と結びついた歌は、仲間を巻き込んで「遊び」へと向かいます。

例えば、偶然「女々しくて」を知った人は、今なら、ネットにスマホでアクセスします。ニコニコ動画やYOUTUBEに行って、歌と1緒に画像で「踊り」や「振り」を見ることになります。今時の若年層は、小学校や中学校・高校で「ダンス」が必修化されていることもあり、ポンバーの踊りを真似ることは簡単です。やってみると楽しい。

楽しいから、仲間に声をかけて、グループで模倣する。ここまで来れば、グループでカラオケボックスに行くまで時間はかかりません。さらに繰り返し練習します。そして、ここからが大事ですが、この世代の人たちは、音楽に合わせて踊り、それをスマホで録画して、動画配信サイトに投稿するのです。2コニコ動画には実に多様なアマチュアによる「女々しくて」があります。
「アマの動画投稿を誰が見るのか」と侮るなかれ「へたうまな」(失礼)オリジナルよりも質の高いダンスを投稿するアマチュアもいます。

「恋するフォーチュンクッキー」(詞、秋元康。曲、伊藤心太郎。公表時編曲、武藤星児)は地域や学校、職場ごとにバージョンが作られるなど、幅広い年齢層で歌われ、踊られ、社会現象になりました。自分の「歌と振り」を1度アップすれば、百万回のビューを稼ぐことも決して夢ではありません。

以上のプロセス、夢中になって何回もカラオケボックスで練習し、時には他の人と競い合うのですから、音楽の使用回数はいくらでも膨れ上がる。これが全国津々浦々で(海外でも)行われているのですから、JASRACの管理メーターは振れ続ける一方です。


カラオケとボウリングの共通点
こうやって、音楽は、振りや踊りに結びつき、遊びになり、仲間意識を強めボウリング場に行く若者は必ずしも、プレーそのものに強い興味があるわけではない、と広告代理店の友人から聞いたことがあります。「彼らはね、ストライクを出したときに、ハイタッチして、盛り上がるのが好きなんですよ」なるほど。言われてみれば、カラオケも同じか。カラオケですら純粋な意味で歌を楽しむ場所ではないかもしれません。お互いの振りやダンスを一緒になって楽しむ遊びの場なのかもしれない。
この遊びを、スマホがさらに盛り上げる。

かつては、気に入った音楽はレコードで聴くしかなかった。しかも家にはステレオ装置は1台しかない。ラジオでひたすら聴きたい曲を待つということもあったし、FM放送やレコードをダビングしたカセットテープを聴く時代が続きました。それがウォークマンやMP3機器、iPOdなどいくつかの音楽媒体の時代を経て、今ではスマホが音楽ツールとなりました。

スマホはネット端末でもあります。カラオケに行かなくても、スマホで自分の歌と踊りをネット上に乗せて、「公開」することができます。こうして、アマチュアの歌と踊りがネット上にあふれます。ひとたびネットに乗れば、どんなパフォーマンスでもある程度のアクセスは稼げます。
もちろん、ネットに投稿する人はむしろ全体から見れば少数でしょうが、1つずつを足していけば、膨大なアクセス回数になるではありませんか。

ベテラン作家が言う「あんな曲」が著作権使用料を稼ぐのには、こんなメカニズムがありそうです。「そうは言ったって、音楽をしみじみと聴きたい。音楽はハートに関わるものではないか。遊びと音楽を一緒にしないでほしい」「世代を超えて歌を歌として受け取ってもらうのが基本だ」
そんな声が聞こえてきそうです。