楽器によって奏者の性格が違う
おなじ楽器を演奏する人間にはある種の性格的な共通点がある、ということは音楽のジャンルを問わずよく指摘されることである。→音楽のジャンル一覧

これには、先天的にそういう性格の人間がそういう楽器を選択する、という一面と、その楽器に長くふれていると後天的にその楽器にマッチした性格が形成されてくる、という2つの面がある。これを楽器選択運命論、楽器別人格形成論と仮に名づけよう。

さらに、おなじ楽器を演奏している人間であっても、ソリストと楽隊では性格はまったくちがうし、オケに入ってからはおなじ楽器といえども、管楽器の一番と二番、弦楽器の最前列とトゥッティ(その他大勢)ではどんどん性格に差があらわれてゆき、しまいにはまったく別の楽器の演奏家のようなちがいを持つことになってしまうのである。

では、どうしてそのような楽器別人格がつくられていくのだろうか。
じつは、楽器によって奏者の性格にちがいがあること(フルート上品、オーボエ神経質、トロンボーン酒飲み、など)は漠然と知られてはいたが、その原因、起源に論及した研究は、いままでほとんど存在しなかった。表面的な次元の観察と考察に終始した、きわめてバランスを欠いた研究姿勢であったと言わねばならない。まずは、どんな人がどんな楽器を選ぶのか、その人格形成に深いかかわりをもつ過去の人生から、楽器別に考察してみたい。

そこで、「その楽器にとって典型的な奏者の代表的履歴書、身上書」というものを、考えてみることにした。もし 、ある特定個人にこれらの履歴‥身上がかさなっているならば、それこそが楽器別人格が存在するという大いなる証拠とお考えいただきたい。

特定の楽器を演奏しつづけることによって奏者の性格が受ける影響は、大別してつぎの三種類にしぼられる。
一、楽器の音色による性格への影響。
二、楽器の演奏上の特質にともなう肉体的感覚が性格におよぼす影響。
三、楽器の、合奏における機能、役割があたえる性格への影響。


ここでいう「影響」とは、その楽器の習得をくりかえし試みるうちに、先天的な性格的特質のなかで、その楽器に適した特性は著しく助長され、一方その楽器の演奏上達を妨げるような特質は抑圧されて現れにくくなる、ということである。
では、この3つの要素がいかにして楽器別人格を形成してゆく(はずな)のかを調べてみました。

2.各楽器別で性格を詳細分析
フルート
冷たさも軽みもそなえた貴族的エリート
フルートの音はフラジョンット(倍音)が多く、神秘的で柔らかい。また、リード、弦などの振動体を持たないために、そのアタック(音のはじまり)もまた若干の柔らかさを持っている。こうしたことから、フルート奏者の性格は、人あたりがよく、やや優柔不断であろうと思われる。

また、初心者のうちは大きい音が鳴らず、ヘタクソでもそれなりの音がするばかりか、失敗してもオオゴトにはならないところから、奏者は上達の過程において自我・プライドを傷つけられることなく育つ。

このことは熱く燃えた体当たり的な性格よりも、むしろ冷静で客観性をともなった、学者肌の性格に奏者を導く。どことなくピントのぼけたような奏者が混じるのは、柔らかいアタックの作用であろう。

オーボエ
ストレスに苦しみ、くよくよと細かい?
オーボエの音色はきわめて情緒的であり、たいへん鮮やかな印象をあたえる。こうした楽器の演奏にたずさわるならば、奏者もまたおのずから感情過多で、個性的な性格になってゆくはずである。

高音は細くなり、低音は独特の雑音をともなった、たいへんからい音色になる。メロディ主体の楽器であるにもかかわらず、美しく響く音域はわずか1オクターブ強にすぎない。こうしたことは、奏者の性格から鷹揚さや余裕を奪い、つねに緊迫したぎりぎりの場所で生きているかのような、切羽つまった雰囲気をあたえる。また細い高音とのたゆまぬ闘いは挑戦的な姿勢を、つらい低音は皮肉なューモアを、奏者にもたらす。

クラリネット
複雑さをひめた万能選手
クラリネットの音色はなめらかで澄み、倍音が少なく、またヴィブラートもかからないため、安定感も大きい。まろやかな音色が争いごとを嫌う性格、感情の安定をつくりだす一方、このなめらかさは奏者に、ある種のとりつきにくさ、他者との感情的な共感の持ちにくさをあたえる。人間関係は円滑に進行していながらも、友情が育ちにくいケースが想像される。

クラリネットは音域の広い楽器であり、三種類の音色音域を持っている。このことは、奏者の性格に幅と余裕をあたえ、けっして単純な性格にさせることはない。深く豊かで印象的な低音はロマンティックな包容力を、澄んだかん高い高音は、それと相反する孤独を好む哲学的な嗜好を、そしてその中間にあってけっして鳴りきることのない音域は、奏者に深いコンプレックスと、それを隠そうとする本能をあたえ、性格に開放的になりきれない部分を残す。


ファゴット
愛すべき正義派
ファゴットは、きわめて広い音域を持っており、その音色も変化に富む。このことは当然、奏者の性格に大きな幅をもたせ、多様な側面をもった厚みのある人間像をつくりだす。もの悲しく、か細い高音はペーソスを、柔らかく深い中音は暖かみを、しわがれた低音は老成し内省的な性格を、それぞれ奏者にもたらし、かん高く苦しげな最高音域の存在は、いざとなったらなりふり構わぬ姿勢を奏者にそなえさせる。

しかし、これらすべての音域に共通するものは、きわめて特徴あるアタックによってもたらされる、とぼけた、ひょうきんな印象である。この特性はファゴット奏者をして、どことなく抜けたところのある、ユーモラスな、愛すべき人物となす。またファゴットの得意とする音域の跳躍は、奏者に唐突な話題の転換を好む性向をつけ加える。

サクソフォン
一点こだわり型ナルシスト
蝙  音色 最も特徴的なのは、そのヴィブラートである。ほかの楽器にくらべ、相当大きくかけられるヴィブラートは、かなり質の悪い音も耳あたりよく変質させる力を持つ。それは奏者をしてつねにものごとの本質をゆがめることなくシャープに観察する姿勢から遠ざけ、むしろすべてを都合よく修正して考える傾向に導く。クラシック奏法における、かぎりなく柔らかいアタックもまた、奏者を夢見る世界に導き、現実逃避を好む性格をつくりだす。

このようにとめどなく、また自我を危険にさらすことなく、聴き手を生理的快感に導くところの音色は、その送り手としての奏者に自己陶酔的なナルシズム傾向をあたえる一方、その低音域は、コントロールのきかないきわめて野性的で粗野な一面を有しており、奏者が土着的な性質から脱皮することを妨げる。サクソフォン奏者が服飾に強い関心を持ちながら、どこか垢ぬけない印象を残すのは、このためである。合的には楽観的で、ストレスの少ない、やさしい性格と言え、たいへんつきあいやすい人間像と言ってよい

ホルン
忍耐強い寡黙の人
音色 ホルンの音色はきわめて柔らかく、太く、まろやかである一方、硬質な表現も可能である。まずは奏者のなかに、こうした男性的側面が助長されてゆくことになるだろう。音域はきわめて広く、それもまた奏者の性格に幅と余裕をあたえることになる。細く張りのある高音は強い意志力を、鳴りわたる中音は人間的な幅の広さを、グロテスクな低音は若干のサディスト的傾向をもたらす。

トランペット
単純明快、やる気満々のエース
音色 きわめて勇壮で、輝かしく、高貴な印象を持った音色である。奏者はおしなべて真の意味で勇敢であり、自分の求められた場面においては、困難にひるむことなく突進することを知っている。しかし、この限定された自己発現への強い自覚は、往々にして奏者を、演奏以外の事象への関心から遠ざける。こうして奏者は、関心の対象がきわめて限定された、不器用な人間になりがちである。

トランペットの重要な特性は、その音量であり、透過性である。したがって、大きい音を出すことはやさしく、奏者は楽器の習得時点から、むしろ弱音での表現を到達目標におくこととなる。このため日常においては、優れた軍人や格闘技の選手がそうであるように、どちらかというと静かな印象をあたえることが多い。トランペットの高音は、むろん物理的限界があるものの、あたかも無限に天に上昇するかのごとき印象をあたえる。このことは奏者に、つねに限界に挑戦しつづける、あくなき探究心と、チャレンジ・スピリットをもたらす。

トロンボーン
あけっぴろげな酒豪、いつも上機嫌音色 この楽器の太く、大きく、柔らかく、余裕のある響きは、奏者をして、落ち着いた、貫禄のある人物像へと導くとともに、音色の開放的で、緊張のない存在感は哲学的苦悩や闘争心から奏者を遠ざけ、人あたりの良い好人物をつくりだす。

トロンボーンは、音の大きな管楽器のなかでも、ホルンと並んで最大級の音量を持っている。全オーケストラを圧倒するこうした力は、奏者に巨大なカタルシスをもたらし、精神衛生上きわめて良好な状態に導く。結果として奏者は、つねに上機嫌、開放的であり、ストレスの少ない、幸福な状態にある。高音域は張りがあり、真っ直ぐな管からもたらされる響きは、ストレートで明るく、開いている。

また低音は生理的雑音(オナラなど)さえ連想させるような、品のない要素を少なからず持っている。こうしたことから、奏者は都会的で気取った、気難しい紳士たるよりも、素朴で自然な第一次産業関係者的雰囲気を漂わせる。トロンボーン奏者がおしなべて酒に強く、そのいずれもが陽気な酒であるのは、こうした音色的影響が強い。

テューバ
底辺を支える内向派
音色 あたかも地面が鳴動するかのような、オーケストラの低音域をゆるがす、きわめて力強い音色は、奏者に強い確信と、求心的な傾向をもたらす。また、発音は同一音域のすべての低音楽器を凌駕するほど鮮やかである。巨大な空気柱の振動を一瞬にしてスタートさせる超自然的な力を有しており、こうした力を操る奏者には、どこか神がかり的超越性がそなわる。→楽器の生い立ちなど紹介

高音域はどこまでも甘く柔らかであり、日ごろ低音の充実において男性的性格を前面に押し出している奏者に、きわめてロマンティックな一面を隠し持たせ る。この高音域だけを取りだした楽器がユーフォニアムであるが、この楽器においては機能面で充実する一方、テューバにおけるような個々の音にたいする強い共感、思い入れが薄れ、技術偏重の傾向が強まり、奏者からはロマンティックな部分がむしろ減少しているのは興味深い。


ティンバニ
いたずら好きでクールな点的思考者
音色 打楽器の音色はきわめて多彩であり、統一的な考察は困難であるが、一般的にはそのほとんどが衝撃・減衰音であり、不規則な高次倍音を非常に多く含んでいると考えられる。このため奏者はきわめて瞬発力に富み、一点への集中性についてほかに類をみない強さを発揮する一方、その思考形態はつねに点的で、本来、線的(アナログ)である音楽という表現形式を点の連続によって思考してゆく(デジタル)という特徴を持つ。

結果として奏者は冷静で客観的であり、情緒的感情的な起伏の少ない安定した人格を形成する。
ティンバニの、オーケストラを根底から突き動かすような音色は、奏者の性格に大きな恰幅と深み、洞察力をあたえ、またいかなる楽器をも包み込む包容力をもたらす。

小物楽器のおおむね金属的な衝撃音は、奏者の知的好奇心を発達させ、その人生を趣味的にする。打楽器奏者に雑学にたけた者が多いのは、このことに起因する。しかし、ロール、トレモロをのぞくすべての音色は、アタックのみによる減衰音であり、アナログ的ダイナミクス、ヴィブラートなど、情緒的表現が不可能であることから、奏者の表現性はつねに抽象的とならざるを得ない。結果として、人間関係においてはドライな、感情的共鳴の少ない人間像を形成することになる。

総括的には、打楽器奏者はどこかクールで精密な、アンドロイド的、機械的印象をあたえることになる。打楽器奏者に、ポーカーフェイスを必須とするギャンブルに強い者が多いのはこのためである。

ヴァイオリン
陰影に富んだユニバーサルの人
音色 ヴァイオリンそのものの音色は、甘く、艶やかでなめらか、潤いにみちた心をとろかすような美音から、神経をさかなでするような、いらだたしい音まで、じつに広範囲にわたっている。これはとりもなおさずヴァイオリンという楽器の表現力の広さ、万能性を物語るものである。

ある楽器の持つ「特性」は、それ以外の要素の退行を意味し、なんらかの「偏向」に起因する。ならば、ヴァイオリンの音色はほとんど不可能のない、ユニバーサルなものであると言える一方、特別な強い個性を持たないニュートラルなものであると見ることができる。

こういう音色は奏者にも反映し、ヴァイオリン奏者は、少なくとも集団として観察した場合においては、特別に強い、偏った個性(欠点)を持たず、表面的には平均的かつ善良な社会人としての印象をあたえることが多い。これは、オーケストラのなかでヴァイオリンを主体とする弦楽器が、音楽の基本構造をになっていることと無関係ではない。

管楽器がそれぞれ固有の色彩的音色に合った役割分担を持っており、その奏者も強い特性と欠陥とをあわせ持っているのとは対照的に、弦楽器はつねに、どのような場面でも演奏することのできる機能と、すべての音域をカバーする同族楽器のなかでの完全な一体感、融合性、またほかのどの楽器と組み合わされても溶け合うことのできる音色とを持っている。いわば管楽器をオカズ、打楽器を調味料とすれば、弦楽器はゴハン。あるいは管楽器を色彩とすれば、弦楽器はエンピツの下書き、という位置をしめているのである。

ヴィオラ
しぶく、しぶとく、「待ち」に強い
音色 しぶく、深みのある、暖かい音色は、奏者に包容力、余裕、寛容といった人間的に愛すべき性格をもたらす。音量はヴァイオリンよりも一段劣り、発音もやや鈍いが、一方ではヴァイオリンよりも長い残響、太い音、大きな共鳴性などを持っている。このことは奏者をややスロースターターな、自己充足的で幸福な人間に変化させる。

音色はニュートラルというよりも、深みとしぶみ、男性的な部分を強調した性格を感じさせ、奏者もヴァイオリニストにくらべて、そうした性格を強く発揮している。一番高いA線でも、甘く、柔らかく響くという事実は、ゆったりとした、鷹揚な人物像をかたちづくる。

チェロ
包容力とバランス感覚にすぐれた、ゆらぎのない人間性
音色 しわがれ、苦く、ほぼグロテスクとも言える低音域、暖かで太く、包容力を持った中音域、強い圧迫感をもって生理的にアピールする高音域。それぞれの音域は、奏者にもそれらに対応した性格を形成させてゆく。

すなわち、暖かみのある、包容力に富んだ人間性、その深奥部にあって人間に陰影をつけ加え、奥行きと理解しがたさを感じさせるデモーニッシュな一面、さらには強く感情をアピールして相手の心理を揺り動かす情熱的な表現性である。それらが総括されて、きわめて個性的で、自立した、ゆらぎのない人間性へと昇華されてゆく

コントラバス
泰然自若、唯我独尊
音色 もはや、音色として個体差を認識することが困難な音域にさしかかりつつある楽器であり、その印象はなによりも、「低い」ことに集約されるだろう。こうした深い、暗い音色はすなわち奏者を、内省的で陰影の深い人物としてつくりあげる。

音をさらに注意深く聞くならば、その立ち上がりには若干のにぶさがあり、かけられるヴィブラートは不器用でやや音程が不安定であり、それにともなって老成した人間性が想起されるなど、やややさしく弱々しい楽器像が浮かびあがる。これらのことは、どこか奏者に年齢不詳の、奇妙な落ちつきと、もの静かな印象とをつけ加える。

ハーブ
夢見がちな深窓の令嬢
音色 発音がきわめて印象的で、それが長い時間をかけてまっすぐに減衰してゆくという、だれにでもたやすく「美」として認識される音色である。つま弾かれ、かき鳴らされる和音は、いやがうえにも幻想的な、神秘的な世界へと聞く者を誘う。これは、専門の奏者でなくとも、だれでもが楽器そのものから引き出すことのできる、既成の美音であることにまず注目したい。

したがって奏者は、努力や忍耐によってなにものかに到達するというよりも、つねに既成の幸福をあらかじめ手にしたところから発想をスタートするという、じつにノーブルで貴族的な性格を有するようになる。家柄の良いお嬢さまが、ごく当然に準備された幸福な結婚によって、その幸福な人生をまっとうすることを連想させる。雑音のない、空想を誘うその音色は、性格からも雑多な苦悩や煩悩をとりのぞき、奏者はおしなべて素直で、夢見るような性格になってゆく


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