レコード店と書籍で同時に注文を出してみると、双方の店でのサービスに大きな違いがあることに気がつく。買いたい商品の在庫が店になくて、メーカーから取り寄せてもらおうとする。

すると書店のほうでは注文の日から入荷までに、早くても1週間近く、遅ければ2~ 3週間は待たなければならない。これに対してレコード店でCDを注文した場合の入荷は格段に早く、原則として翌日、遅くとも数日中にはその店に届く。

外から見たところでは区別がつかないが、レコード店には流通システムの上で、 2つのタイプがある。 1つはメーカーと直接に取引契約を結んでいる特約店、もう1つは卸売業者を経由して取引する、卸傘下店である。

メーカーの特約店の場合は、メーカーに在庫がある限り、注文した商品は翌日にはその店へ入荷する。卸傘下のレコード店の場合、日本の卸売業の最大手、星光堂の傘下店を例に取れば、注文を受けたCDの在庫が、星光堂の商品センターにあれば、注文の翌日入荷するし、ない場合はメーカーから取り寄せるのだが、それでも入荷するまでに4日以上かかることはほとんどない。

レコード(CD)と書籍は通常の消費財であると同時に、前者は主として音楽、後者は文学から学術研究までを含む幅広い分野で、芸術・文化の振興と発展を担っている文化財でもある。

そのため両者とも、商品数は少ないが短期間に集中販売されるヒット商品がある一方で、長期間にわたって少量ずつ販売される、おびただしい数のスロームーブ(動きの遅い)商品を抱えるという共通の特徴がある。

そのため両者はそれに起因する多様なユーザーのニーズに応える、多様な商品のスムーズな供給という、共通の命題をかかえている。

そのような状況のなかで、書店とレコード店の商品入荷の時差はなぜ起こるのだろうか。そこには書籍とレコードの市場の規模と、それにともなう流通システムの違いが大きな要因としてあげられる。

書籍はメーカーである出版社と書店の間には、日販とトーハンに代表される全国70数社の取次店が存在し、商品はそれらの取次店を通して流通する。それは書店の規模にも立地条件にも関係なく一律である。

しかし取次店の介入だけが、書籍流通の速度を遅くしているとはいえない。レコードの場合は卸売業の星光堂の傘下のレコード店でも、最長4日で注文品が入荷するのだから。

市場規模の点ではどうだろうか。出版物とレコードの市場の大きさを比べてみよう。99年の統計で書籍と雑誌を併せた出版物の合計発行金額は約3兆7,300億円、新刊本の発売点数は約6万3,000点、出版社の数は約4,400社、書店の数は全国で約2万5,700店という。これに対してレコードの方は生産高で約6,000億円、新譜点数は約1万5,000点、小売店数は約8,000店である。

これらのデータの比較から明らかなように、レコードの市場は出版物の市場の6分の1程度の規模である。

メーカーの数という点では、レコード会社は日本レコード協会加盟会社がわずかに22社、大手メーカーに販売を委託している中小レコード会社が約80社で、合計しても約100社に過ぎない。これは出版社数の約4,400社に比べて44分の1という少なさである。

このような状況をみれば、出版物の流通には膨大な数の出版社と膨大な数の書店の間に、大型の取次店が介在して膨大な量の出版物をさばくことが不可欠であることが納得できる。

もし取次店が存在しなければ、書店は約4,400社に及ぶ出版社に個別に注文を出さなければならないし、また出版社は全国2万5,700店の書店に個別に、本を出荷しなければならないことになる。

取次店がこれらの大量の出版物を取扱うことについては、コンピュータをベースに置いた新たなシステムがつぎつぎに導入され、その改善も進んでいるという。

しかしそこには限界があるようだ。それはレコードの市場の6倍もの点数の商品が、40倍もの数の出版社から、 3倍の数の書店に流れるという、膨大で複雑な出版物の物流にともなう、物理的な制約である。その制約をとりはらおうとする努力は、鋭意おこなわれているというし、インターネットを通じての新たな流通システムの開発にも、力が入れられているが、その足取りはかなり重いということが現実のようだ。


メジャーなレコード会社からのCDデビューが難しくなっている
限られた数の商品を、集中的に売ることで売上高が確保できることは、レコード会社にとっても、レコード店にとっても経営的に は、歓迎すべきことだった。資金投下、人材配置、生産計画、在庫管理など、経営のあらゆる面で選択と集中が進み、効率化が実現されたからである。

そしてこのような状況でも、市場が伸長しているということは、ユーザーの側も、レコード会社側のこのような方向を歓迎しているとみてもいいだろう。なにしろミリオンセラーの誕生とは、100万もの人がそのCDを気に入って、購入したということなのだから。 このようなミリオンセラーの多発は、レコード会社が意図した結果ともいえる。

90年代に入り、バブル経済の崩壊という厳しい市場環境にさらされたレコード会社は、宣伝費の効率化を狙った、新曲のテレビ番組・テレビCFとのタイアップと、制作費の軽減を狙った、スター・アーティストのベスト盤の発売に焦点を絞る傾向が強まった。

そしてテレビ・タイアップからは、多くのメガ。ヒット曲が、ベスト盤からは多くのミリオンセラー・アルバムが生まれた。それらの成功はレコード会社のビジネスのあらゆる場面で集中化志向をますます促したといえる。

このような動向は、例えばレコード会社が毎月発売する新商品、すなわち新譜の発売タイトル数の減少にもあらわれている。

その傾向はここ 数年の新譜アルバムの発売タイトル数の減少に顕著にあらわれているといえるだろう。それは90年代半ばから漸減が始まっているが、特に99年のアルバム発売タイトル数は、12,573点となり、前年の15,208点に比べて、約2割も減少した。

いうまでもなく発売点数の減少は、レコード会社にとって制作費、宣伝費、販売促進費など、資金の集中投下による効率化に大きく寄与するものである。 CDアーティストとしてデビューする、新人歌手や新人ユニットの数の減少は、もっと顕著である。

日本レコード協会に加盟するレコード会社からは、91年には510名(1ユニットも1名として)がデビューしたが、その後毎年その数は減少し、97年には250名となって半減、98年には202名とさらに約50名も減少した。

J―POPのスター・アーティストを目指すミュージシャンたちにとって、メジャーなレコード会社からのCDデビューは、90年代に入ってからはますます難しいものとなった。 厳しい環境は新人アーティストに限ったことではない。

長い間レコード会社との専属契約を結び、過去には多くのヒット曲を持つベテラン歌 手も、レコード会社から契約の延長を拒否されるケースが目立つようになった。

例えば90年代の終盤になって、極端に市場が悪化したことを理由に、ポニーキヤニオンやBMGファンハウスは、演歌からの撤退を宣言し、NHK紅白歌合戦の常連クラスの歌手の何人かが、契約打切りの 対象となり話題を呼んだ。

この他のレコード会社も専属契約を見直し、アーティストを厳選しようとするところが続出した。これらはみな集中化によってヒットの確率を高めるようとする、レコード会社の動きにほかならない。