指紋ならぬ声紋の研究も進んでいる
共鳴器官の形や使いかたなどにより、私たちの声は、人相、指紋と同じように各人各種、千差万別。そこで指紋ならぬ声紋の研究も進んでいます

声紋とは、声を構成しているいくつかの成分を物理的に分析したもので、縞模様の図表として表れるところから、指紋にならって呼ばれたもの。特に犯罪捜査の分野でその成果が期待されています。

警察庁の科学警察研究所に以前在籍していた人の話で、コンピュータによる声の分析合成で、この道の専門家です。数年前の新聞記事(日経)によると、「声の合成には、口の中の容積、顔の形、鼻の形、性格、年齢身長、など12項目の指標を用い、顔の形は丸形で120、卵形で820、角形で1200~1300の種類に分類している」ということです。

この方法でモナリザの彫刻、肖像画から推定すると、彼女の声は「女性としては低音でハキハキしており、少し鼻にかかった理知的なハスキーボイス。女優の大空眞弓さんの声に似ている」そうです。実際にどうかは確かめる方法がありませんが、想像しただけでも、なかなかユニークで楽しい推論ではありませんか。

しかし、声紋によってだれそれと断定できるところまではいっていません。声は年齢によっても変わるし、声帯に異常があったり、風邪をひいたりしただけでも変わります。声帯を手術して声を変えることもできます。テープが法的証拠にならないのはそのためで、現段階では、何人かの容疑者を絞る場合などに使われている程度です。

人間の声や言葉を機械でつくりだす研究も進んでいます。母音をまずつくり、それに子音をつけて合成し、機械が五十音をしゃべるのです。アメリカやスウェーデンなどで始められ、日本でも盛んに研究されています。もとは軍事スパイ行動のためでした。音にするための信号を送り、それをあとから合成して言葉にしてしまうわけです。逆の場合もあります。

単に言語を合成するだけでなく、たとえば声を録音して、周波数別に分析し、その周波数別のエネルギー分布を逆に合成すれば、そっくりの声を人工的につくりだすことも可能なのです。

推理小説めいた話になりますが、自分の声の周波数の特徴に合わせて声の鍵をつくっておけば、ただいまと言っただけでわが家の扉が開くことも考えられます。銀行預金の印鑑カードのかわりに、届けでてある声によって預金をおろすシステムも現在テスト中と聞いています。

もっとも、風邪でもひいて声が変わり、何回声をかけても扉が開かなかったり、預金がおろせない事態も予想されますが……。



声帯の長さは身長に比例する
日本人の成人の声帯の長さ(前後径)は、男子で17~20mm女子で12.5~17mmというデータがあります。外人の場合もさほど変わりませんが、やや長いかもしれません。体重とは無関係ですが、一般に身長に比例して長くなるといえましょう。

女性の声が高く、男性の声が低いのは、おもに声帯の長さの長短によるのです。子どもは女性よりさらに短い。また声楽の分けかたでいうと、一般的に女性のなかでもソプラノのひとは短く、アルトのひとは長い傾向があり、男性もテノールのひとは短く、バスのひとは長い傾向があるということになります。

声楽の声種の分けかたは、必ずしも声帯の長短だけでは決められませんが、テレビなどで見るコーラスグループで低い声を出しているひとは、たいてい長身のひとだとお気づきになるはずです。

ただし、声帯の長いひとは低い音が出るのは当然ですが、声帯および筋肉の緊張力と発声技術がうまければ高い声も出しうるのです。しかし、その逆に短い声帯のひとは高い音を出すのには有利ですが、低い音を訓練によって出しうる可能性は非常に少ないのです。したがって長い声帯のひとのほうが、声域としては広く使えるわけです。



顔かたちと声とは深い関係がある
よく電車の中などで、知人友人の声そっくりの声を耳にしてドキッとすることがあります。
振り返ってみると、なぜか顔までそっくりさん。あなたもこんな経験をしたことが一度くらいあるはずです。

顔かたちが似る、つまり共鳴腔が似ているわけですから声も似てくる。人相と声は関係があることになります。

しかし、人相と声がいくら関係があるとはいっても、どのように関係があるのかはとても複雑で、いちがいにこうという結論は出せないはずです。専門的訓練をしなくても、後天的な要因で声は変わるものですから、もっと統計的な数字を集め、調べないといけないでしょう。

大ざっぱないいかたですが、せっかちで短気なひとは、非常にピッチ(調子)が高いようです。逆に、落ち着いていてゆったりしたひとは声が低い、また、エネルギーの問題なのでしょうが、肉食を好み、活発なひとは声が大きく、菜食好みのひとは声が小さい、というひともいます。

体形的には身長の高いひとほど声が低く、首の太い背の低い人に声の高い傾向がありますが、体重は声にはあまり関係がないようです。

顎の張ったひとも比較的よい声を出します。あるいは頬骨の出ているひと、歌手のなかには、こうしたタイプのひとが少なくないようです。
頬骨が張っているということは、上顎洞や口の中(口腔)などの共鳴腔が大きいために充分共鳴でき、声がよく鳴るのでしょう。
顎が張っているひとの場合も、口腔の共鳴効果がよくなります。


声は遺伝的要素より後天的要素が強い
「弟さんの声がそっくりだったので、あなたと間違えてしまったわ」
顔が見えない電話口では、よくこんな失敗をしてしまいます。特に親きょうだいは間違えやすいようです。

ということは、声は遺伝するのでしょうか。遺伝するという完全なデータはありませんが、親きょうだいでは、顔かたちが似ているのと同様に、音色をつくる構造、発声器官や共鳴腔などが似ているはずですから、当然声は似てきます。双生児の場合は音色、声城など親子よりもっと似ています。

肉体的な面ばかりでなく、生活環境も大いに影響します。子どもが言葉を覚える過程を考えてみればおわかりでしょうが、家族の、特にいちばん接する時間の長い母親の影響が大です。

長い間生活しているうちに発声のしかたなどが自然に似かよってくるのです。学校の先生の話しかたや、あこがれのひとの口調に影響されることすらあります。

いつもわめきちらし、騒々しい話しかたをする母親に育てられると、子どもも同じようにすぐ大声を上げるようになるでしょう。教育の世界では子どもを見れば家族がすぐわかるといいますが、子どもの声を聞けば親の声や口調がわかるといえるかもしれません。肉体的に影響されることは多少あっても、こうしたことは先天的なものでなく、むしろ後天的なことです。私は声の特徴を決めるのは、むしろ後天的な要素のほうが強いと思います。

最近、子どもの日常使う声城が低くなっているのではないかと思うことがあります。その証拠に、幼稚園などで童謡を歌わせるとき、ピアノの伴奏を下げて弾くと生き生きと歌いだすのだそうです。
高い音の童謡よりも、テレビアニメの低い音のテーマソングなどを歌う機会のほうが多いからでしょう。

われわれの研究によれば、幼児の潜在的声域はそれほど変わらないはずですから、社会的な声の使用環境に応じて、開発のされかたが変わってきたのだと思います。
発声器官を動かす筋肉の強さ、持続力はもちろん、声の高低や音色ですら、訓練しだいで変わるのです。
声というのは生まれつきのものではないのですから、あなたも自信をもってください。