発声練習
実際に声を出す訓練です。ピアノの音に合わせてするのが正しい音感を身につけるためにも理想です。しかし、ない方はやむをえません。ほかの楽器でもよいのですが、ギターなどでは、姿勢に無理を生じますから、できればピアノの音をテープにでもとらせてもらって、それに合わせるとよいでしょう。もちろん音程に自信のある方は、楽器なしでも結構です。

①女性はピアノの鍵盤中央の「ド」から1オクターブ上がったところの「ド」の音から、男性は女性より1オクターブ下の「ド」(鍵盤中央の「ド」)の音から、「ドレドレド」の音階で「ホ・ホ・ホ・ホ・ホ」とスタッカートで発声し、息をもどします。

最初に発声する前に息を吸わないこと。
自然に話をするときの感じで声を出し(呼気)
声を出したために使った分だけもどす(吸気)という二拍子の呼吸法です。

男女とも、この練習に使う声の種類は裏声を主にします。スタッカートとは音楽で一音符一音符ごとを切り離して奏することで、「ホーホ…」と次の音をつづけずに「ホ・ホ・ホ……」と切れ目をつけて歌います。

②次に「ドレドレド」の音階を保ちながら、半音ずつスライドさせて音を上げていき、苦しくなって顎が上がってしまう状態になったらやめます。

③苦しくなると音の感じがくずれてきます。
思いなおして、最初の「ドレドレド」のときと同じ気持ちで、もう一度やめたときの半音上の高さでやってみます。さっきは苦しかったのが、今度は1段階上がっているわりにらくに出るはずです。そして、今度は半音ずつ下げていって、苦しくなったところでやめます。ここまでで1回。この練習は1日1~2回まで。3回以上やってはいけません。

注意
①始める音の高さは、ピアノの鍵盤中央の「ド」から1オクターブ上がった「ド」の高さから、とは限りません。なんとなく気分がよいときに口をついて出てくる高さ、あなたの出しやすい高さから始めてよいのです。ただし女性は「ド」の音、男性は「ソ」の音ぐらいから裏声になるのがふつうですから、この音から始めるとやりやすいでしょう。

②はじめのうちは姿勢と声を出すことが結びつかず、とまどってしまうことでしょうが、少しつづけていくうちに、勘がつかめると思います。
肩や胸などに力が入らないらくな姿勢ですること、そして顔や首の位置を動かさないことを心がけてください。

この練習をつづけていくうちに「ホ・ホ・ホ…」の「ホ」の音の「H」の音が目立たなくなり、「オ」の音に近く聞こえてきます。微妙な変化ですが、テープにとって比較してみても敏感な人なら判断できるでしょう。

これは、かたくなっていた声帯がやわらかくなり、声門閉鎖がソフトになってきた証拠です。こうなると、たとえば日常の会話で声の出はじめが強く、かたいひとも、やわらかい、響きのよい声に変わってくるはずです。

息がつづかず、ちょっと疲れたりすると声が出しにくい、と悩んでいたひとも、声帯の効率がよくなってくるはずです。疲労のために呼気が少なくなっていても、少ない呼気を有効に使えますから、らくにきれいな声が出るようになります。
今まで出せなかった高い音や低い音も出せるようになってきますから、むずかしい歌も充分こなせるようになるでしょう。



フェイストレーニング
鏡に向かってオーバーなぐらいにやろう
発声練習としては、もう一つ、顎や舌や唇といった構音器官が、自由自在に働けるよう訓練をしておくことも大切です。あわせて、表情筋のトレーニングもやっておきましょう。単に顔の表情が豊かになるだけでなく、声自体の表情を魅力的に変えるための運動です。

下顎のトレーニング
①口を広く開ける。次に、口を急に閉じる。この2つを一挙動でやります。(50回反復)
②口を大きく開ける。そのまま下顎を左右に動かします。頭は動かさないこと。鏡を見ながらやるとよい。(40回反復)

唇のトレーニング
①歯を閉じたままにして、歯が見えるくらいに唇を開きます。(30回反復)
②唇を閉じたまま、頬をふくらませます.次にふくらました頬をへこませる。唇はやはり閉じたまま。(30回反復)
③唇を閉じて、唇全体をあらゆる方向にすばやく動かす。(2分間)

顔のトレーニング
①鼻翼をいっぺんに上につりあげます。いやなにおいをかいで顔をしかめるときのように。そのまま3秒間つづけ、元にもどします。(20回反復)
②眉毛を最大限上に上げる。驚いたときの表情で。そして元にもどす。(20回反復)
③強くまばたきをする。次に眉毛を上げながら、カツとまぶたを開く。(20回反復)
④体を垂直にして前を凝視し、そのまま天井を凝視します。頭は動かさず、顔もしかめっ面にならないように。肩も上げてはいけません。そして今度は地上に目を落とす。(20回反復)
⑤今度は目を左右に動かします。(20回反復)
⑥目の完全円形凝視運動。目をぐるぐる回す。最初はゆっくり、だんだん速く。(1~2分間)

口の中のトレーニング
①下顎を思いきり下げて口を開け、舌を勢いよく出してください。そしてそのまま舌を元にもどし、口を閉じます。(30回反復)
②舌の先を唇のうしろ側にもっていき、舌の先で押して唇をふくらませる。(1分間)
③口を大きく開けます。次に舌の先を上歯のうしろに、つづいて下歯のうしろに移動。そして舌の先を唇の右端から外へ、次に唇の左端から外に出します。舌を左右の横に思いきり出すわけです。(10回反復)
④「ガ」「ヤ」「ダ」をささやくような、しかも力強い声で発音します。舌根、舌背、舌の先、舌の各部分の運動をするわけです。(30回反復)
⑤鏡の前で大きく口を開け、「力」を発音。舌根が軟口蓋に向かってよく上がるかどうかを確認。(30回反復)
⑥巻き舌のトレーニング。「ルルルル…」と、リラックスして、ハッキリできるように。声の高さを変えたり、やわらかくしたり、口先だけでやったり。(1分間)



地声と裏声の切り替えかたで歌唱力はぐんと増す
声が低いほうから高いほうへ変わるなかで、ある高さから急に声の性質が変わっていくものです。つまり音色が変わります。この、高い調子で音色が急に変わった声を、裏声と呼んでいます。

日本ではこの音色の違いを「地声」と「裏声」という区別をしますが、洋楽発声では声区という区別をつくり、胸声区(重い声区)、中声区(中間の声区)、頭声区(軽い声区)、ファルセット、という分類をしています。日本でいう「裏声」は、洋楽の頭声区やファルセットに近いわけです。

洋楽の声低の分類は、もともとはパイプオルガンのパイプの長さ、太さを変えて音色の変化を表した、その言葉を極用したもので、分類法はいろいろあります。
胸声区、頭声区といった名前がついているので、あたかも共鳴する場所を意味しているように聞こえますが、あまり関係ありません。

発声上の違いは、地声の場合、調子の低いことが多いので声帯も比較的ゆるく張られ、しかも声帯全体の振動によって発声しますが、裏声の場合は声帯も比較的強く張られ、振動する部分も声帯の接する狭い範囲に限られます。

問題は声区から声区に移るときに、いかにスムーズに、はっきり変わり目がわからないように切替えることができるかです。車のギアチェンジをいかにスムーズに行うか、というのと同じです。
これができるようになると、音楽的な歌唱力はずっと広がってきます。

声の変わり目の高さは個人差があって、どこの高さから裏声になる、と断定することはできません。ひとによって広い範囲で裏声のひともいるし、裏声の出せないひともいます。

声が、このようないろいろむずかしいところを通りすぎたり、音色を変えたりするとき、スムーズに歌うためのテクニックが声楽の世界ではいろいろあります。たとえばドイツ語でデックングなどといわれるのは、声をかぶせるという意味のようですが、感覚的なものなので、お国柄の違いでいろいろと誤解されている向きもあるようです。
これもほかの国では別の表現法になるようで、イタリア語のジラーレ、英語でカヴァード・ヴォイスなど、いろいろです。

訓練としては、ヴォイス・トレーニングと発声練習です。
発声練習で、「ドレドレド」の音階で半音ずつ上げたり下げたりして発声する1音ずつの変化をなめらかにしていくことが、声区の切れ目を自然に目立たせなくしていくことにつながるわけです。

また、「ア」を発声するとき、だんだん高くなっていっても同じ口の開きかたで「ア」と発声していては、声が割れてしまいます。そこで「オ」音に近い「ア」で発声すると割れずにすむといった、母音の変化を利用したくふうのしかたもあるでしょう。