バンド活動での危機回避のためメンバーと決めるべきお金の問題
バンド活動1.先憂後楽:バンドの危機管理
バンド(グループ)活動
あなたがグループとして活動するのであれば、ビジネスとしてスタートする前に、話し合っておくべきことがあります。音楽をやってさえいれば最高という人間の集まりでも、お金の問題が入るとグループとしてやっていけなくなるというのは、過去無数のミュージシャンたちが経験してきたことです。

音楽が楽しいということとは別に、「このメンバーとならいっしょにやっていける」という意識と、お互いの了解事項をおさえることが大切です。

同じ時間を分かちあうことの重さは量りしれません。ある意味でそれは結婚に似ています。そして離婚の裁判での最大のテーマは慰謝料、つまりお金のことになります。

結婚届けであれば世帯主の欄に署名が必要となります。同様にバンド・メンバーで契約を交わすにあたり、バンド名の所有者を決めなければなりません。さらに各人、だれが収入の何パーセントを受ける権利があるのか、ツアー実施の最終決定やメンバー除名、あるいは採用の最終決定をだれがやるのかを決めましょう。録音(原盤制作)が終わり、「さあレコーディング契約が決まりそうだ」という時ではもう遅いのです。

こうした事項を定めたバンド契約がない場合、もしメンバーのひとりがバンドを離れれば自動的にバンドは法律上終了、つまり存在しえないこととなります。

どうしてもバンド名を残し活動を継続したいなら、その離れたメンバーに許可料あるいは使用料を支払わなければなりません。つまりバンド契約書がない場合、法律上バンドの存在にまつわる以下のような諸権利は、メンバーが等分に所有することになっています。
①ギャラ
②借金
③アーティスト・ロイヤルティ
④バンド器材の所有権
⑤バンド名の所有権
⑥バンドのロゴの所有権
⑦バンドのオリジナル楽曲の著作権
⑧バンド活動にまつわる種々の決定にあたっての多数決原理に基づく投票権
⑨その他




2.バンドのオリジナル楽曲の著作権
ジョージ・ハリソンが、自分の曲が「レノン/マッカートニー」の作品として登録されてしまっているとして、出版社にクレームをつけたことがありました。問題の曲の登録時に、エージェントが「レノン/マッカートニー」という作家コンビの名前を戦略的に“売り"にするために、あえてジョージ・ハリソンの作家表記を避けたというのが真相だったようです。

実際に作曲したのがメンバーのだれであれ、仲の良いメンバーの場合、音楽著作権をそれぞれの曲表記とは別にまったく均等に分けるというバンドも実在します。また編曲についてはグループ。メンバー全員が係わった形で登録して、その楽曲の著作権の12分の1にあたる編曲権を、メンバーで均等に分けているバンドもあります。

実際に作品が商品としてはじめて公表される際には、それぞれの楽曲に関して作家と出版者の間で作家契約を交わすことになり権利も明確にされますが、契約を交わす以前からメンバー全員が著作権の所有権について協議し理解しておくことが大切になります。

ツアー
ツアーの主目的は、お金を稼ぐことよりも作品CDのプロモート活動にあります。
主催者との契約についての重要項目は、
①ツアー日程
②プロモーターが負担してくれる費用
③マーチャンダイジング
④器材、ライティング、ステージのセット・アップなどの具体的用件

またより小さいスケールで、自分たちでマネージングせざるを得ない場合も、クラブ・オーナーと契約書を交わしてからでないとステージには立たないくらいに考えておいた方が良いでしょう。
①演奏スケジュール
②ギャラ
③器材(何を、どれだけ、どちらの責任で)

これらは問題が出てからゴタゴタしないよう、書面にすべき最低項目です。
この場合のギャラはCDがメジャー発売され、デビュー新人として出る場合でも10万円くらいに思っていた方がよいでしょう。

CDがチャート・インすれば100万円単位になるでしょう。いずれにしろチケットが何枚売れたかがギャラ基準となりますから、ここから正当なギャラを計算することができます。仮に2,000円のチケットを100人買ってくれれば20万円の収入で、15%の3万円をクラブ・オーナーに支払い、残りの17万円をメンバーで分けることになるといった具合です。

ツアーの費用項目には以下のようなものがあり、ツアーをやってもなかなかお金にならないというのも納得できます。
①食費、②宿泊費、③器材のレンタル料、④車のレンタル料、⑤最小限のスタッフのギャラ(クルー費用、あなたがマイケル・ジャクソンであれば400人分)、⑥保険、⑦事務所、マネージャーヘのコミッション(歩合手数料)
そこでCDを売るという目的が明確であれば、レコード会社からツアー・サポートとして費用を支払ってもらう方法を取ることが必要となります。

ビデオクリップ
TVの影響力はバンドにとっても大きくなる一方です。同様にTVコマーシャル・タイアップやTVドラマ・タイアップがあり、ヒット・チャート番組があるわけで、メディアとしてのTVの影響力はとてつもないものがあります。

MTVに使用されるかどうかを別にしても、TVメデイア用の絵素材はプロモート上必要不可欠といっていいでしょう。100万円でもビデオ・クリップは作れますが、ちょっといいものを作ろうとすれば600万円くらい、さらにあなたのグループが一流の仲間入りをした際には、1,000万円くらいのビデオ制作費が飛んでいくことになります。


3.「コラボレーション」をめぐるトラブル
アーティスト・コラボレーションによる音楽制作と活動
ある程度のステイタスをすでに確立しているアーティストが協力しあってレコーディングを行い、アルバム発表コンサート活動も実施、当然種々のマーチャンダイジング展開をして、「やったね」と思っても、アーティストあるいはそのマネージャーやプロダクションが音楽ビジネスを理解していないと、とんでもないトラブルとなります。

考えられるトラブルのケースとしては、アルバム制作費のオーバー2,000万円の制作費の予定だったのが、いつもの制作スタイルと違ったためにレコーディング期間が長引き、スタジオ料をはじめとした原盤制作費が2,500万円に及んでしまった。

レコード会社の原盤でレコード会社から音源制作会社に制作費は2,000万円出しているが、2,000万円以上かかった分は音源制作会社が負担する契約になっている。逆に1,200万円で済んでしまっても、制作費を音源制作会社からレコード会社に返還する義務がないから、九々800万円が制作会社の利益という契約が多い。さて、具体的にだれが差額の500万円を負担するのか。



音楽著作権の「競合」
日本のアーティストと英国のアーティストが、共に作家としてアルバムの収録曲の作詞・作曲も「コラボレーション」ということで共作として行った場合、その楽曲作品はどちらの出版社がJASRACにどのような形で登録するのかまで、「作家契約」を通して決めておかなければならない。→JASRACについての詳しい説明

そうでないと、たとえば日本人作家と作家契約を前々から結んでいる日本の出版社がJASRACにオリジナル出版社として「内国作品登録」してしまい、一方UKの作家は別の日本の出版社とサブパブの契約を交わし、そのサブパブリッシャーがJASRACに「外国作品登録」をしてしまうということも起こり得る。

JASRACも部署が違うのでそれぞれの登録を一端認めてしまい、その付け合せをした段階で上記の両出版社に、「どっちが正式の権利者ですか。話あって解決してください」と通知することになる。この段階でその楽曲が「競合」という形になり、競合が解決してもJASRACは分配を一期(つまり3カ月)延期することになる。

つまり両出版社ともに「泣きを見る」ことになる。建前上では登録を取り下げた方に責任があり、作家に対して印税分を仮払いすることも考えられるが、実際はそうした責任を取らない出版社も多い。
さて、だれが作家の著作権印税を規定の時期に支払うのか。

そもそもコラボレーションするにあたって、まずしっかりした「契約書」が作成されており、こうした事態を予測してその対応も名文化してあればよいわけですが、なかなかそうあたり前にはいかないのが音楽ビジネスの現場のようです。

契約書が必要という発想は「性悪説」に基づくものですから、相手を疑ってかかることによって契約の内容が充実します。音楽をこれからいっしょに創ろうというアーティスト同志が相手をまず疑ってかかるということは、心情的にどんなに矛盾しているか今さら説明するまでもありません。

ただここでは、少なくともマネージャーとかエージェントとか言われる人たちがお互いにしっかり音楽ビジネスできていれば、こうしたトラブルは起こりえない、ということはいえるわけです。

4.マーチャンダイジング
バンド名、バンド・ロゴは潜在的に商品価値を持っています。それは“マーチャンダイジングと言って、Tシャツやギター・ピック、テレカやノートにいたる商品に使用される場合、現実のものとなります

最近のインディ・シーンでは、ライヴのチケット売上と同じ額のマーチャンダイジング商品売上をあげるバンドも、数多くあると聞きます。チケット代が2,000円で、ロゴ入りTシャツが1,800円、サイン入リギター・ピックが200円という感じです(それにしてもピカチュウの専売特許と思っていたファミリー・ポンジャンのモームス版をスーパーで発見した時は、アーティストとアニメ・キャラを同一素材とみるプロデュースの着眼点に関心させられました)。

「著作権」が作家の作品のように権利者の表現したものに関連しているのに対し「商標権/サービス・マーク」は権利者固有のシンボルに関連しています。具体的には「商標権」※1はバンドの名前あるいはバンド・ロゴが、Tシャツなど具体的商品に使用される時に発生します。「サービス・マーク」はバンド名が「○○公認の商品ですよ」などと、営業に使われる場合などのサービス行為に使用されるとき発生します。

バンド名の権利は、一番先にそれを使用したバンド名使用者(すなわちバンド)が所有します。これは時に音楽ジャンルでないキャラクター名にも適用されます。テイチクからメジャー・デビューすることになった「T.K.N」は、もともとはインディーズ時代に「鉄拳」として通っていたのですが、同じ「鉄拳」という名前のゲームがすでに存在していたため類似性が強いとしてバンド名が使用できなくなり、新しい名前「T.K.N」を使用することになったものです。

商標登録することによって権利が発生するわけではなく、バンド名を使用する行為によって「商標」そのものが創造されます。音楽著作権が回笛を吹いたときから「楽曲」が創造されることといっしょですが、バンド名を権利として確定するには(つまりバンドが売れてきた際には)、商標登録した方がいいことになります。

登録が終わってマーチャンダイジング商品にあなたのバンド名が使用されるときには、バンド名の後ろに①の権利表示を記載することになります。

マーチャンダイジング会社との契約にあたってのチェックポイント
①アーティストヘのアドヴァンス
②クリエイティヴの決定関与権
③マーチャンダイジング会社の独占権の及ぶ市場範囲
④ツアー・デイトと観客動員数(アーティスト側の義務として)
⑤ツアー後の売れ残り商品の販売権


さらにあなたのバンドがビッグになってくれば、ツアーに関係なくショップや通販で売ることにもなるでしょうし、商品のタイプを限定して(たとえばライターにバンド・ロゴをつけるとか、携帯電話にバンド・ロゴをつけるといったこと)マーチャンダイジング契約を交わす可能性もあります。

その場合のアーティスト側に入るロイヤルティは、小売価格の10%前後と考えておいて良いでしょう。ただし通販契約では、通販会社の純収益の半分というようなケースも出てくるかもしれません。

マーチャンダイジングに伴う収益分配
最近のコンサート事情だとコンサート制作費がかかりすぎて、コンサート・チケットの売上だけではイヴェンターもアーティスト事務所も儲からないという話が多い。しかしコンサート会場でしっかりTシャツやらカレンダー、バッジ、果ては生写真までマーチャンダイジング商品を売って利益を上げる、アーティスト事務所やイヴェンターも多い。

しかし事務所がしっかりしていないと、マーチャンダイジングの売上金がコンサート制作費のオーバー分の穴埋めにいつのまにか回されてしまい、アーティスト側にマーチャンダイジング売上のお金が一切還元されないということも起こりうる


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