のどや声の調子は睡眠不足や不快湿度、刺激物を食べると悪くなる
のどと睡眠量との関係
眠ってしまうと声が出にくくなるから、試験の前日は眠らなかった、という音楽学校の学生がいたという話を聞いたことがあります。気持ちはわかりますが、あまり利口なやりかたではないようです。

もちろん、夕方眠って明け方に起床、1~2時間して、のどをはじめ体全体が目覚めた頃から発声練習を始めて、テストの時間にベストコンディションにもっていく、というのなら話は別です。

睡眠は充分とらなければいけません。発声にかかわる神経や筋肉を、休養させてやる必要があるからです。

理由はもう一つ。声のコントロールをする大脳を働かせる物質は、眠っているときにつくられるからです。商売上、声を大切にしているひとたちは、ほとんどが充分な睡眠をとることに気を使っています。

しかし、演奏前、試験前、などには精神的に緊張しますから、不眠になりやすい方が多いようです。脈眠のとりかたにも、平常からのくふう、習練が必要です。
睡眠は何時間とるのが理想か、個人差があるのでいちがいにはいえません。一般的には7~8時間。最低6時間はとりたいものです。

あまり眠りすぎると、起きてもしばらくぼんやりしてしまいます。筋肉や神経が長く休みすぎるとだれてしまい、順調に回復するのに、ふだんより時間が必要になります。

睡眠不足がつづいたために、ある夜それを補うために長時間眠ることは当然必要ですが、目覚めてから平常にもどるのには、やはりいつもより時間がかかることを覚えておいたほうがよいでしょう。


部屋の乾燥は声帯を痛める
湿度も、声とは切り離せない問題です。乾燥しすぎても、湿度がありすぎても、よくありません。部屋の適当な湿度は50~60%です。
鼻とかのどの粘膜は、ある程度表面に湿気があってこそ、声帯のすり合わせが潤滑にいくのです。渇いてくるとなめらかにいかず、粘膜を傷つけ、声帯を痛める結果になります。だれにも暖房のききすぎた部屋で、のどがひりひりしてきた経験があると思います。
湿度が高すぎても声帯に浮腫を起こします。声帯を紙にたとえれば、紙を水で濡らした状態、つまり水ぶくれのようになって振動が緩慢になってしまいます。共鳴も悪くなります。したがって声はビッチも下がり、音色も暗くなりがち。音が吸収されてしまうので、響きも悪くなってしまいます。むしむしする日には、つとめて明るくふるまってください。

気候と声について、フランスの有名な音声学者、アンリ・ユッソンによれば、ヨーロッパでは夕方の4~5時までの間がいちばん声が出るのだそうです。理由は気温や湿度が声帯に関連があるのか、太陽系の宇宙線の関係なのかはわかりません。

最近、脳の中に言語と無関係の低音域で、誕生日に対応した「年輪系」と呼ばれるスイッチ機構が発見されたそうです。地球の公転や、満月、新月といった月齢など、宇宙の逆行と同調する脳のセンサーがあるということです。

温度や湿度に対して声を守る方法として、梅雨や乾燥期などは、明るく声を出すようにしたり、のどを湿らせたりして対処法を考えるべきですが、冷暖腸に対しては、手軽な方法としてハンカチなどを上手に使うことをお勧めします。温度差が激しいとき、ハンカチで鼻と口を軽く押さえて、変化した空気に慣らしてから徐々にハンカチを離すのです。乾燥しているときも、ハンカチを濡らして口にあてればいいでしょう。

人気汚染による悪影響も考えられますので、うがいやマスクも効果があるでしょう。ただし、うがいの水は冷たすぎないこと。冷房の部屋では寝ないことはもちろん、のどを守るために、新婚旅行のときですらタオルを首に巻いて寝た、という涙ぐましい努力をされている歌手もいます。


あずきや黒豆はのどの薬
食べ物に関しては皆さんからよく聞かれるのですが、一般的に、のどを冷やすようなもの、涙が出るほど強い刺激物、栄養がなくて消化の悪いものは好ましくありません

声楽家の人の中には、お気の毒なことに、アイスクリームを1年のうちに1~2度しか食べないということです。歌う前後には、冷たい飲み物、食べ物は絶対避けているそうです。

刺激物も敬遠されています。カレーライスを絶対に食べなかったといいます。コーヒーも刺激物だからといって飲まないひともいます。しかし食道のほうへいくもので、直接声帯にどうこうということはないはずです。あまり神経質になることはないと思います。

辛いものでなくても、メロンを食べるとせきこんだり、くしゃみが出るというひとも何人かいます。

ナメクジを飲むと声がよくなるという俗説もあります。しかし、医学的に見ると、ナメクジに栄養があるとは思えないし、消化がいいかどうかもわからない。ぬるぬるしたところが声帯をなめらかにするのだろうということから、世間に伝わったものでしょう。残念ながら、ぬるぬるしたものを食べたからといって声帯がなめらかに動くものではないのです。

天ぷら、生卵、納豆、などが声にいいというひともいるようです。油と食べ物のぬるぬるした特徴からいわれているのでしょうが、栄養価の点でたしかに悪くありません。少し冷えますが、生卵は特に消化もよいのでお勧めできます。

また昔から黒豆の汁がのどによいといわれていますが、黒豆をはじめとする大豆やあずきなどの豆類には、サポニンという蛋白質の一種が含まれていて、タンをきったりする働きをするのです。市販されているのどの薬にも同じ成分が入っています。でも、食べすぎると下痢をしますので注意してください。

声にプラスになる食べ物とは、結局、体力をつけるという意味で栄養価の高いもの、いつまでも腹にたまってしまうことがないという意味で消化のよいものならいいのです。満腹のときは声が出にくいわけですから、何がいか悪いとかよりも、腹八分めに食べておくのがよいでしょう。水やビールも、飲みすぎると声帯に浮腫を起こし、声の調子が下がることがあります。ドイツではビール好きのひとの声をビアバスなどといっているほどです。


生理日に強い声を出すと声帯出血しやすい
女性の方は、生理と声の関係について注意してほしいのです。声楽家はもちろんのこと、一般の方でも、影響を受けます。

生理時は、声帯およびその周辺に充血と浮腫が起こり、そのために声帯の振動も悪くなります。共鳴器官の充血、浮腫も加わって、声は重く、低めで、ややしわがれ声になることが多いようです。声帯は充血しているだけでなく、出血する場合もあるほどです。だいたい生理に入る2~3日前から始まって2~3日が悪く、後半になると少しよくなってきます。稀に、声帯が充血ぎみになる前が調子はいいという女性もいます。お風呂に入ったときに調子がいいのと同じ原理です。

この時期は、精神的、心理的に、不安定になりがちです。
ある有名な女優さんが演劇でミュージカルの主役をやっていたとき、公演が2か月くらいつづくものですから、生理を迎えて声が出なくなり、一時休演したことがありました。長期の演奏会ではこうしたことが起こりますし、演奏会の日どりを決めるには配慮が必要です。

しかしながら、日本では声を使うひとの立場よりも、会場やオーケストラの都合で日どりが決まってしまうのが実情。旧ソ連では生理日の3日間は、歌手や俳優は公然と休みがとれるとか。これは旧ソ連に限ったことではなく、先進国はだいたいそうなのではないでしょうか。

日本でも企業では生理休暇を認めているところが多いのですが、声楽家でなければ、会社を休まなければならないほど声が出ないことはありません。たいていの人は、大きな声を上げたり、無理な発声をしないよう、のどを大事にすれば問題はありません。