1.コールユーブンゲンについて
ピアノ教則本のバイエルと並んで、初版から135年経った今でも、楽譜出版業界のベストセラーとなっているのが、コールユーブンゲンです。

ドイツ語で「合唱練習書」という意味を持つこの本は、19世紀後半に規模の大きなオペラを書いていた作曲家ワーグナーが、ミュンヘンで自分の作品に出演する合唱団員を養成するために設立した音楽学校の、合唱科の教科書として、部下の教師フランツ・ヴュルナーが1876年に著したものです。全三巻ありますが、ここでは日本で広く使われている一巻(単旋律)について述べましょう。→音楽学校の詳しい説明

当時この学校に入学してくる人は大人で、しかも全くの素人でしたから、「ドレミ」の正確な歌い方から始まります。最初のうちはリズム読み(音名だけを歌わずに読む)と歌唱とが交互に掲載されていますが、忘れてはならないのは、必ず拍を明示しつつ歌うということです。

原著の序文にそのことが書いてありますが、多くの指導者はそれを読まず、とくに古いタイプの声楽教師たちには、生徒が拍をとろうとすると怒る人もいるほどです。しかし全曲が無伴奏ですし、そもそも拍のない西洋音楽など存在しません。

とくに上拍と言って一拍目以外から始まる曲や、切分音と言って本来の拍とリズムがずれる曲では、拍を打たなければ事実上の演奏が困難です。ちなみに日本では数多くの版が出ていますが、必ず「全訳」を買うこと。

ならそれから、なぜか大学の声楽科が使っているからと右へ倣えをして、普及している版がありますが、これは大正時代に出版された本であり、原書の趣を知るためにはよいとしても、実際的ではありません。恐らくは現在の声楽教師たちが師事した先生は明治や大正生まれの方々で、その時代から教科書として踏襲されてきたのでしょう。

一巻の前半はすべてハ長調で、19世紀に考えられる限りの拍子が使われています。そしシャープフラットで後半に入ると他の調(#やりなどが付く)の練習です。この辺りから、実際の曲からの引用が始まります。

ここでもう一つ注意しておかなければならないのは、読み方(唱法)の問題です。日本では文科省が文部省と呼ばれた時代から、その音階の始まる音をドと読む(移動ド唱法)ように指導されてきましたが、これは教育の世界や、何も伴奏のない場所での歌唱には適していても、器楽や専門家をめざす人たちにとっては不都合です。

そして、ひとたびこの読み方を身につけると、後からではなかなか治らないものです。ですからここでは、ピアノの鍵盤のドに当たる音は常にドと読む(固定ド唱法)という癖をつけてしまったほうがいいでしょう。そのためにはコールユーブンゲンと共に、どうしてもピアノは習っておかなくてはなりません

コールユーブンゲンは、小学校の教員採用試験にはほとんど必ずと言っていいほど出題されます。教育系の大学では専攻の如何を問わず、授業でも習うでしょう。しかし音楽はクラス授業では正確に身につけられません。どなたかに一対一で教えていただいたほうがいいと思います。

コールユーブンゲンが少し進むと、「コンコーネ50番」という練習曲集を学ぶ可能性もあります。これは本の名前と言うよりはジュゼッペ・コンコーネという人の名前で、19世紀から20世紀にかけてのイタリアの声楽教師でした。

伴奏付きで旋律を歌い上げるように作曲されているので、コールユーブンゲンよりはずっと楽しいでしょう。しかしこれは伴奏者が必要です。お互いに伴奏し合えれば素晴らしいですね。

なお、さまざまな標語(速さや表情を示す言葉)も出てきますから意味を書いておきましょう。和音や形式についても簡単ですから調べてみてください。わからなかったら先生に訊ねてもいいですが、ご存知ない場合はあまり深追いしすぎて「嫌な生徒!」と思われないようにしてくださいね。


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