音楽の教育で感性や能力を伸ばすのに必要なことは楽しさだった
1.楽しい音楽活動とは
これからの音楽科教育においては、今まで以上に、充実した楽しい音楽活動をどう展開するかという点を大切に考えるようにしなければならない。このことは、教育課程審議会が「答申」における音楽科の改善の基本方針の中で「児童生徒が楽しく音楽にかかわり、音楽活動の喜びを得るとともに、(以下略)」というように述べていることからしても、必須の課題と言えるのである。

楽しいとは、晴ればれとしていて快く嬉しい状態にあるようなときの気持ちであると言えよう。それ故、楽しいときというのは大変愉快で、なんとも心地のよい気分なのである。

ところでこの楽しさにも、実は二つのタイプがあることがわかるのである。即ち一つは刹那的とでも言えるような、いわば一過性タイプの楽しさであり、他の一つは先々にまでつながっていくような持続性のあるタイプの楽しさなのである。前者はその場限りではあるがその楽しさの度合いはかなり大きい。

しかし後者の場合は、その場での楽しみもさることながら、次の機会を心待ちにするといったような楽しさであるだけに、その味わいにはまた格別のものがあるのである。

無論、双方とも楽しさの醍醐味は同じなのであるが、音楽科教育の目指している「楽しい音楽活動」は、ここで言う後者の方に、よりウェートのかかったものであるというように押さえておきたい。結果的にはこれも教育課程審議会の言う、「(前略)生活を明るく豊かにし生涯にわたって音楽に親しむことを促すことを重視し(後略)」の意に沿うことになるのである。

このように考えてくると、ここで言う楽しい音楽活動とは、伸び伸びと快く歌を歌ったり楽器を弾いたり、また楽曲を聴いて音楽の流れの中に自由に心を遊ばせたりすることであり、さらに、そうした活動を通して追体験を希求するような気持ちが生まれるようなことまでをも含めた音楽的な活動体験のことを意味しているのである。

2.充実を図るとは
「充実」とは、ごく一般的には内容が満ち備わることであると言われている。つまり、しっかりとした内容が用意され、その内容を十分に生かし切ることのできる力量も備わって互いに機能し合ったとき、そこに確かな充実感と言えるものが生まれるということである。

いまここで直接の対象として考えるのは楽しい音楽活動の充実であるので、この場合の内容とは表現をしたり鑑賞をしたりしようとする音楽そのものということになり、力とは当然技能をはじめとする音楽的な諸能力を指すことになる。したがって、より楽しい音楽の素材を、より確かな力量によってこなしているとき、そこではより充実した楽しい音楽活動が行われていることになるのである。

音楽とのかかわりを深めるためには
既に述べたように、何かにかかわるということは、かなりのパワーで積極的に対象となるものと接するということであるので、子供が音楽と深くかかわるためには、まず、音楽から心を揺さぶられるような刺激を受けること。

次に、その刺激を繰り返して受けることにより、更に心を大きく揺さぶられて何等かの感動を覚えること。そして、そのようにして体得した感動を追体験してみたいという気持ちに駆られることなど、一連の経験を重ねることが必要である。

子供の心が動かない限り、対象と深くかかわることは望めないからである。このような過程を経るうちに、子供は次第に音楽に熱中し、真正面から音楽とかかわり合うようになってくるのである。
この辺りのことに関して、具体的なレベルでもう少し突っ込んで考えてみることにしよう。

①新鮮で魅力のある教材を用意する
②活動の反復活動を大事にし、充実度を高める
③追体験を希求するようになるための種をまく
④よい意味でのこだわりを容認する
⑤適材を適所で生かす
⑥主体的な活動を促す場を多く設定する


3.音楽活動の基礎的な能力を培うこと
音楽活動の能力とは、表現や鑑賞に必要となる音楽的な諸能力のことを意味している。具体的には、子供たちが音楽活動を通して感じたことや、心の中に描いた思いや願いを、声や楽器で積極的に表現して伝えたり、演奏の魅力や音楽の美しさを感じ取りながら、主体的に音楽を聴いたりすることができる能力のことである。今回の改訂で基礎的な能力という文言を加えているのには、次のような意味が込められている。

それは、小学校音楽科に絞って考えるならば、基礎教育としての小学校教育段階における音楽活動を成立させ得るだけの総合的な音楽の能力ということである。そしてその程度は、端的に言えば学習指導要領に示す内容程度ということになる。

また中学校とのかかわりという観点に立てば、中学校の目標で示す「音楽活動の基礎的な能力を伸ばす」活動が円滑に行われるための基盤となる能力を培うということである。さらに、生涯学習とのかかわりから考えるならば、学校教育を終えてから後も生涯にわたって楽しく歌ったり、楽器に親しんだり、心ゆくまで音楽を聴いてその美しさを味わったりしようとすることの原動力となる能力の素地を培うということである。

いずれにしても、表現及び鑑賞のバランスの取れた楽しい音楽活動を行うことを通して、これらの諸能力を確実に身に付けるようにすることが大切である。そのためには、単なる技能訓練やドリル的指導に陥ることのないよう配慮して指導を進める必要があろう。

ところで従来から示してきた音楽性という文言は、音楽的な諸能力を総称したものという意味合いで用いられてきた経緯がある。つまり、今回の「音楽活動の能力」とほぼ同じ意味で使われてきたと言えるのである。

しかし一方でこの言葉には、音楽的な嗜好や音楽的な感性の傾向まで含むような、広い意味で用いられる現状もあり、今回の改訂ではこの音楽性の意味するところの中心的な部分を取り出し、音楽的な諸能力の育成をより明確に示すこととしたのである。

4.音楽に対する感性を育てること
「音楽に対する感性を育てること」については、現行に引き続き今回の改善でも重視していることである。ここでいう音楽に対する感性とは、端的に言えば、聴覚を通して受け取る音楽的な刺激に対して、鋭く、豊かに反応する音楽的な感受性ととらえることができる。

それは、音楽美を感得したり、感じ取ったことを外に表出したりする上で重要な働きをもつものである。そのような意味から、この「音楽的な感受性」は、表現及び鑑賞の活動の根底にかかわるものということができる。

ところで「感性」とは、人間が外から受ける様々な刺激を、まず自分の感覚で受容し、その上で深く、豊かに反応することができる心の働きととらえることができる。したがって感性は、すべての子供が人間としての人間らしさを備えていく上で重要な側面となるものである。

それは、教育課程審議会の答申のねらいの第一にも掲げてあるように、教育全体で目指している豊かな人間性の育成を進めるためには、この感性と理性、あるいは知性が一体となった調和が強く求められているからである。

このことについて、中央教育審議会の第一次答申では、生きる力は、理性的な判断力や合理的な精神だけでなく、美しいものや自然に感動する心といった柔らかな感性を含むものである」と述べていることからも十分に理解できる。このような趣旨は、答申の小学校音楽の改善の具体的事項の冒頭に「児童一人一人が感性を豊かに働かせながら、音楽にかかわり、楽しい音楽経験を得られるようにすることを重視して」と述べていることにも反映されている。

小学校音楽科においては、子供たちが様々な音楽活動を通して、音楽美を鋭く感得する力を深めると同時に、美しい心に感動したり共感したりする温かい心、他を思いやる心や優しさをはぐくむなど、子供たちの人間形成の面でも大きな力として機能するものとして、音楽に対する感性の育成を一層重視していくことが大切である。


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