1.絶対音感とは
絶対音感とは、音を聴いてその高さをドレミで言い当てられる能力を言います。ちょっと考えると、素晴らしい能力のように思えますが、生活の中でそんな必要があるでしょうか。

救急車が来たとき、そのサイレンの音を「シソシソですね」などと口走ったら、一体何を考えてるんだお前は!と怒鳴られそうですね。また食卓でグラスが触れ合うたびに鉄琴の音楽として聞こえるなんて、気が休まらないと思いませんか?

音楽の世界においては、指揮者は他人の演奏を指導する役割があるので必要かもしれませんし、採譜と言って民謡などの歌を楽譜に書き取る仕事にも便利ですね。それであっても、音は単独で存在することは滅多になく、他の音との関連で成り立っているので、基準の音を予め知っておけば、何とかなるものです。

ただし、絶対音感ではありませんが、絶対音高を身につける方法はあります。それは、幼児期からピアノと親しむことなのです。他の弦楽器・管楽器は、自分で音を作り出さねばならず、それは奏者の勘に頼るところが大きいのです。その点ピアノは鍵盤を押しただけでいつも同じ高さの音が出る便利な楽器です。ですから声楽も含めて、全ての音楽家はピアノの勉強を勧められるのです。→世界の音楽家や人物が解説付きで簡単に検索できる一覧表

もっとも、調律が正しくないと意味はなくなります。他の楽器はチェンバロでさえも奏者が自分で調律するのですが、ピアノだけはそれが不可能なほど大掛かりになりました。そのために、ピアノを愛していても、楽器そのものに対する愛情が、他の楽器に比べると少し薄くなるのかもしれませんね。ヴァイオリンなら自前の楽器はわが子のように可愛がり、必ず携帯しますが、ピアノはそういう訳にはいきませんもの。

でも、ピアノにも一台一台個性があります。いろいろなホールのピアノを弾いてみて、気力に入った楽器があったときは本当に嬉しいものです。賭けみたいなものですが。


まず断わっておきたいのは、「絶対音感」というものの定義が未だに確定的には定まっていないことです。ならば、なぜそんなはっきりしないものをわざわざここで持ち出してくるのだと言われそうだが、それには理由があります。

私たちが考えておかなければいけないこと、それは、この絶対音感言われる能力(あるいは、感覚)がヨーロッパ平均律音楽の流れの中でしか出てこなかったものだということです。

というのも、例えば、アラブ音楽に小さい頃から慣れ親しんだ人たちやインド音楽で育った人たちには、この能力はほとんど意味をなさないことになります。

ただ、だからといって、アラブ音楽やインド音楽の理解に絶対音感がまったく無意味かと言うとそうではありません。

たとえ平均律とまったく異なる音階や音感覚を必要とするアラブ音楽やインド音楽であっても、音程というものは存在するその音程が平均律の音程ではないからといって、絶対音感はまったく役に立っていないかというとそうではありません。

一般的に言われる絶対音感とは、まったく楽器のガイド音なしにドとかソといったさまざまな音の高さを自分で出すことができる、あるいは、言い当てることができる能力とされています。

では、この場合のドとかソとは一体どういう音かというと、現在西洋音楽で標準音とされているA(ラ)=440サイクルを基準にした時のドとかソの音という意味です。

そして、この延長線上に、救急車のサイレンの音を聞いてソシソシと聞こえるとか、家庭の蛍光灯から聞こえる電磁波のノイズがソの音であるとか言い当てることもできるとされる能力があります。

つまり、絶対音感を持っている人には世の中にあるすベての音が音程(ピッチ)を持った音として聞こえるという風に理解されています。

絶対音感など持たない普通の人間でも、「高い音」とか「低い音」という音程差を判断することは容易にできます。しかし、それが赤とか黄色とかの色の識別と同じように、すべての音の絶対的な高さの「場所」を言い当てることができるかどうかとなれば話は別なのです。


2.絶対音感と相対音感
絶対音感と相対音感というのは、音の高さをどのように捉えるかということにおけるふたつの種類です。

この、音の高さを捉える作業を音楽的な例に即してお話しすると、例えばピアノの鍵盤を無作為にボーンと弾いて、その音名を判断させた時、その前に何も基準となる音を聴いておかなくても、正確に言い当てることのできる人が絶対音感の持ち主です。

この絶対音感にも完璧なるものとそうではないものがあって、完璧な絶対音感の持ち主は、音の高さを瞬時に言い当てることができますが、これはほとんど遺伝的な要素が強いそうです。

逆に完璧ではない方の絶対音感の持ち主は、幼児期の訓練により基準の音の高さを記憶している人たちで、音を聴いてから基準の音を思い出し、それから聴いた音の音名を判断するので、前者に比べるとある程度時間がかかるそうです。

相対音感の持ち主は、音名を判断する前に、ある基準の音をもらっておいてその音の記憶から音名を正確に判断することができるように訓練された人たちです。

また、読譜の仕方に固定ドと移動ドの二種類の方法がありますが、これはよく絶対音感や相対音感という言葉と混同されますので、皆さんは間違えないようにしてください。

固定ドというのは譜面のkey in C(ハ長調)におけるドレミファの音名のままですベての調の譜面を読んでいくやり方で、初見で譜面を歌うという点では、絶対音感を持っている人にしか苦痛なだけで意味がありません。


一方移動ドというのはドレミファの位置を調が変わるごとに変えていく方法で、たとえばkey in E〈ホ長調〉なら、Eをドレミファのドの場所にします。

一見こちらの方が複雑に感じられますが、ドレミファのスケールや主音の位置が和声的な感覚と一致しているので、慣れてしまえばそれほど難しくはありません。

また、この移動ドの読譜方法でないと、相対音感の持ち主は初見で譜面を歌うことはできません。相対音感の持ち主は、学習の最初から移動ドで読譜の練習をしないと貴重な時間を無駄にすることになります。またこんなことさえ知らない音楽教師がいるので気を付けてください。

絶対音感は確かに素晴らしい能力ですが、絶対音感を持っている人が完璧な音程で歌えるかというと、それは別の話のようです。

なぜならば、音を正確な高さで聴き取るとことができたとしても、自分自身が歌った声を正確にイメージどおりの高さにもっていくためには、やはり声のコントロールの訓練が必要だからです。

また、音を和声的ではない捉え方をしているので音程の捉え方が音楽的ではなくなってしまう危険もあるそうです。

でも、普通の人は歌う前にまず正しい音の高さのイメージ作りからやらなければいけないところを、絶対音感の持ち主は飛び越えて行けるので、早く上手くなれる可能性は高いですし、読譜のスピードや聴音など、かなりの面においてそうではない人に比べて圧倒的に有利です。

しかし、相対音感の人にもメリッ卜は多く、まず音を和声的に捉えているために、旋律の捉え方が非常に音楽的だという部分です。

それから、音程を相対的に捉えているので急な譜面の移調などにもいちいち譜面を書き換えることなく歌うことができます。絶対音感の人の多くは譜面をそのたびに書き換えないと気持ち悪くて歌えません。これは、急なkeyの変更がよくあるポップスの現場ではとても有利なことです。



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