1.一流アーティストに向けたインターネット利用方法

インターネットの爆発的な普及は驚くほどだ。いまでは音楽業界も完全にデジタル化の波にのまれてしまっている。インターネットの利用法を紹介しよう。 メジャー・デビューしたアーティストには、オフィシャルなサイトはもちろん複数のファン・サイトが存在している。アマチュア・バンドで自分のサイトをもっているバンドも増えてきた。

雑誌、ラジオ、テレビといったメディアになかなか露出することのできないアマチュア・バンドにとって、不特定多数に情報を発信したり、音源を聴いてもらったり、映像を見てもらえるサイトはたいへん有効だ。 メジャーで活動するアーティストのホームページはデザインやコンテンツに凝ったものも多く (もちろんウェブ・デザインのプロが作っているのである)、へたなサイトだとイメージ・ダウンになりかねないが、アマチュアのサイトならばパソコンと簡単な参考書があれば十分だ。 まず、はじめにしなければいけないことは「なんのためにどんなホームページ(以下、HP)を作りたいか」を考えてみることだ。もちろんアーティストの君にとって、広告塔としてのHPという位置づけは最低限あるだろう。

さらにファンとの交流、意見収集、ライブ告知、音源の発表など、自分たちの音楽を広めるために機能を追加していくことが必要だ。

HPに備えたい内容としては、アーティストのプロフィール、ライブ情報、リリース情報、ディスコグラフィー、日記などがおもなものだろう。インターネットならではの、双方向でリアル・タイムな仕掛けとして掲示板、チャット、メール・マガジン、MP3などによる音源試聴などをプラスすることも望ましい。
HPが完成したら検索サイトに登録しよう。また音楽関連のリンク集ページにも積極的に登録することを勧める。同じ音楽的志向のバンドのHPに宣伝の書き込みなどをしてみるのもいいだろう。 誰があなたのHPを見てくれるのか想像もできないだけに、そこには無限のチャンスが待っている。雑誌やラジオ、地上波のテレビ放送とも違って、クリックひとつで海外からもアクセス可能なのである。実力の向上とともに、インターネットもうまく利用してプロヘの近道を見つけよう。 最近、「オーディション・サイト」と呼ばれるものも増えてきた。レコード会社、マネージメント、音楽出版社がおこなっているものも多い。→レコード会社と音楽について

簡単にデモテープの送り先だけが書いてあるのもあるし、そのサイトを見て音をチェックした人が投票して、多く得票したアーティストがデビューできる可能性が高いなんていう凝った企画のサイトもある。 さらに最近は、自分のバンドのCDや音源を販売できたり、より多くの人に音楽を聴いてもらう機会も、インターネットの普及によって確実に増えた。

通常のCDショップで取り扱ってもらうことはなかなかむずかしいが、インターネット上ではパッケージとしてのCDやMP3などに代表される音楽フォーマットを発表することは意外に簡単だ。

最近ではアマチュアやインディーズのアーティストを応援する音楽配信サイトやCD通販サイトが多く存在している。ただし原盤の権利、著作権、肖像権などを保護できるのか見極めることも大事だ。→カラオケと著作権について

2.デモテープは必要最小限の録音機材への投資は必要
デモテープ作成にさいして最低限クリアしたいクオリティーや興味を引きつけるコツ、気をつけるだけで印象がよくなるポイント、チャンスをのがさないちょっとしたコツといったものを考えてみたい。

じつはデモテープの音質はさして重要ではない。職業柄、頭のなかで音質を補正して聴くことはできる。重要なのは音質より音楽の内容だ。

プロ仕様の48チャンネル・デジタル・レコーダーのコンソールがあるようなスタジオで録音するアマチュアはいないと思うが、アマチュアのデモテープの場合は、ブースとコントロール・ルームが分かれているようなスタジオでレコーディングする必要もない。

自分のやっている音楽に見合った、その音楽を伝えるのに最低限必要な機材で十分である。

たとえば、テクノやダンス系の音楽をめざしますといわれて、時代遅れの4トラックのカセット・マルチレコーダーで録音されても判断のしようがない。

逆にギターの弾き語りを自分のスタイルとする人ならば、ラジカセ一発録音でもちゃんと録音されていれば、べつにかまわない。

最近はハード・ディスク・レコーダー(HDR)を使えば、何年か前とは比べものにならないほどハイクオリティーな録音が安いコストでできる。デスク・トップ・ミュージック(DTM)も、アマチュアまでかなり浸透しているようだ。練習スタジオにHDRを持ち込めばかなりのクオリティーで録音ができるし、安価なMDをマスターにした4チャンネル・レコーダーでも、使い方しだいでは十分だ。

しかし、いくら音質にこだわらないとはいっても、送られてくるデモテープは、平均的に機材の発達によって驚くほど音質が上がっているのも事実であり、あまりに音質で劣るというのがマイナス・ポイントにならないと断言もできない。

というのも、単純に音が悪いということだけではなく、自分の音楽を少しでもいい音質で伝えたいと思うのはアーティストとしては当たり前だと思う。 これだけ安価な録音機材がそろっている現在、機材の導入をおこたっているとしか思えないデモテープだと、その人のアーティストとしての資質も疑ってしまうからだ。

最近は送られてきたデモテープの音質のよさに驚くことも少なくない。デモテープを足がかりにメジャー・デビューしたいのなら、必要最小限の録音機材への投資は必要だと心得ておこう。

まずだめだと思うデモテープは、楽器のチューニングがいちじるしく合っていないもの。チューニングを合わせること自体、チューニング・メーターを使えば、さしたるテクニックは必要としないはずだ。その努力さえおこたっているということに、まずこのデモテープにかける意気込みが低いと感じてしまう。

あるいは、チューニングもできないのかとあきれてしまう。また、あまりにひどいチューニングでレコーディングされているとすればその人の音感が疑われるし、ましてや音楽的才能があるとはとても思えないのである。

たとえば、1960年代のアルバムを聴いていて古くさく聴こえるものと、現在でも新鮮に聴こえるものがある。ビートルズは、リマスターされたCDを聴いても、その新鮮さに驚いてしまう。

音楽がすばらしいのはもちろんだが、同時代のバンドに比べて各楽器のチューニングがひじょうにいいのも、「鮮度」を保っている要因だと思う。 コンピューターの紡ぎ出す完璧な音程が当たり前になった世代の耳には、チューニングの悪い音楽はいっそう強い違和感をいだかせるらしい。

デモテープのレコーディング時には、その楽器単体はもちろんのこと、ほかの楽器とのチューニングもこまかくチェックしてはしい。 フュージョン・バンド・コンテストではないので、演奏力は一定の水準を確保できていれば、大きな問題ではないと思っている。

ロック、ポップスはクラシックやジャズではないのだから、ある程度のテクニックと、うまくなりたいという気持ちとセンスがあればなんとかなると思っている。そういう観点でデモテープは聴くようにしているので、演奏テクニックにはこだわらない。 それでも、これは絶対コードが違っているとか、リズムキープができないといった、あまりに演奏力がないデモテープに可能性を感じることはできない。 

へたでもセンスを感じさせ、音楽性と可能性を感じさせることが重要なのだ。 ボーカルも、音程が不安定で、聴いていて気持ち悪くなるようなものがデモテープには多い。 君がボーカルによっぽどの実力があればべつだが、自分では音程をちゃんと追っていると思っても、シビアに聴くとそうでもなかったりする。そうならないためには、歌入れをする前にキーボードなどでガイドのメロディーを入れることを勧める。

バンドの場合もバック・トラックをレコーディングしたあと、それをHDRに入れて家に持ち帰り、納得いくまで歌入れをするという方法もあると思う。歌をうまく聴かせるレコーディングのテクニックとしては、最初の八小節くらいまでは歌のリズム、音程を完璧にレコーディングすること。

そうすれば全体として、うまいという印象を与えることができるのだ。人が集中力をもって歌を聴いているのは、じつは最初だけで、それ以降は流して聴いてしまうので、はじめのところがしっかりしていれば、2コーラス以降は多少いいかげんでも気にならないもの。

さらに、音程が下がりきるところ、上がりきるところは音程をシビアに とること、そうするとへたには聴こえなくなる(逆に、それをおこたると、うまくてもへたに聴こえる)。

録音する曲は、当然一曲目にいちばん自信のある曲を入れよう。毎日膨大な量のデモテープと格闘するレコード会社のスタッフは、二曲目がどんなにいい曲でも、一曲目がだめなら二曲目を聴くことはないのだから。イントロが無意味に長いのも、やはりマイナス。君にとってはアレンジ上の必要性があるかもしれないが、 担当者は無数のデモテープのなかで、百本、あるいは千本に一本の可能性を求めて聴くのであり、千本すべてを真剣に聴いていたのでは体力と気力がもたないのも事実だ。

君が未来のスーパー・スターで、百曲の名曲をすでにもっているとしても、収録するのは多くても五曲で十分。たまに、自分の全作品を送ってくる人もいるが、見ただけでうんざりだ。音楽的才能は三曲あればある程度判断できる。逆にいえば、その曲数に自分の才能を凝縮するような作品を作ってほしいということでもある。


3.レコード会社と契約を交わす際のキーポイント
契約のパーセンテージうんぬんがわかってきたら、今度は実際にレコード会社と契約を交わす際のキーポイントについて述べましょう。アーティスト側の財布とレコード会社の財布と、どちらの財布にどれだけお金が入るかという話となります。

「アーティスト契約」と一口に言っても、レコード会社が原盤を持って(100%レコード会社原盤)アーティストとは単に「専属契約」を交わす場合から、アーティスト事務所が原盤を持って(100%事務所原盤)「原盤契約」を交わす場合、さらにレコード会社と事務所がお金を出しあって原盤を所有する形(共同原盤)までケースがさまざまです。

ここでは一般的に必要となるであろう、アーティストがレコード会社と契約を交わす事前に事務所や弁護士(法務の専門家)との打ち合わせをする際の、検討ポイントを述べています。

アーティスト契約金の金額と支払い方法例を上げて説明するとすれば、契約期間を仮に2年とすると月100万円として2,400万円が一括で支払われる場合と、「育成金」という名日で毎月100万円が2年間にわたって支払われる場合があります。もちろん金額は売上見込みから逆算されるので、この例でいうと2年間に4億円、卸価格2,000円のCD換算で約20万枚〉くらい売れるアーティストの場合の金額となります。

またこの4億円売上が達成されない場合でも、不足売上額に応じて2年後にアーティストからレコード会社に契約金返還義務が生じるということはありません。もちろん実際には、レコード会社が独自の支払い基準をもって提示する支払い方法および金額となります。

契約期間と追加期間(オプション期間)
デビュー・アルバムの発売日から起算して2年が、通常の契約期間となります。そしてさらに1年間の追加優先契約期間、すなわちファースト・オプションに伴う契約期間が契約レコード会社にあります。アーティスト・ロイヤルティの率はこの期間一定となります。

契約更新時には、アーティストとしてはオプション期間を1年以内に押さえ、オプション期間内に発売する作品のロイヤルティは前の条件より高いものになるよう交渉すべきでしよう。

レコード発売
レコーディング契約が単に成立しただけでは、レコードが実際に発売されることが決まったことになりません。あなたが出すとすれば、契約相手のレコード会社からしか出せないことが決まっただけです。

レコーディングが終了してマスターが完成しているにもかかわらず発売の意思がない場合は、ほかのレコード会社から発売できるという権利条項を付け加えておくべきです。

宣伝および初回出荷
あなたの作品を生かすも殺すも宣伝次第ということなのですから、できるかぎりラジオ、TV、雑誌広告などに具体的にいくら(あるいは売上額に応じその何%以上)の予算を取るのかを、明記してもらうべきです。

特別な条件がある場合は、これも組み込むことです。たとえば外部の宣伝スタッフをあなたが依頼し、レコード会社の宣伝マンがケアできない、ラジオ番組の制作会社に対するプロモーションを依託するとして、そうした費用が発生した場合には、その費用をレコード会社に持ってもらうようにしなければなりません。

ツアーはレコードを売る最も直接的な方法ですが、同時に金食い虫でもあります。いわゆるアルバム発売記念ツアーといったものであれば、100%レコード会社の予算で行えるようツアー・サポートしてもらうようにしたいものです。

ビデオ・クリップの制作についての契約条項は、メディアの変化に対応してどんどん増える状況にあります。ビデオ・クリップの制作費もバカにならないものがある一方、レコード・セールスにとってPVによるプロモーションの重要性は高まってきています。

カップリングとコンピレーション
あなたの楽曲音源がほかのアーティストの楽曲音源とカップリングされて出たり、あなたの音源のいくつかが再編集されてリリースされたり、目先のセールスをもくろんで商品が企画されることがあります。その場合は、すべてあなたの許諾が必要であることを明記すべきです。アーティスト生命を短くするような企画は、決して許可すべきでないのです。

テリトリー
「全世界」でワールドワイドに発売権をレコード会社が持つというのが、通常のアーティストの契約書には明記されています。仮に特別にUSAにあなたの作品を売れるほかの強いルート、レコード会社があるならば、「アメリカ合衆国を除く全世界」という表記に変える必要があります。

経理計算および決算
レコード会社から定期的に、あなたのレコード・セールスの数字やアーティスト・ロイヤルティ、あるいはあなたへの請求明細といったものを受けることが明記されていることを確認しましょう。さらに必要に応じてあなたがこれらの数字をレコード会社から提出することを要求できることを、契約書に記載しましょう。これによって、レコード会社がルーズな経理処理をあなたに対して行うのを避けることができます。


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