1.業種のいかんにかかわらず、製造メーカーの業績評価をするときには、よく「製・販・宣が三位一体となったことが成功の要因」とか「製・ 販・宣の連携が不十分だった」などの言い方がされる。製造、販売、宣伝の3つの機能が、有機的に働くことが、マーケティング活動には不可欠ということである。

レコード会社をメーカーと呼ぶのは、音楽をもの扱いするようで抵抗もあるが、音楽を「作り」、「宣伝し」、「売る」ことを、業とするレコード会社は、明らかにメーカーである。

ただしここでは“製"が“制"に変わる。通常のメーカーの“製造"に当たる機能は、レコード会社では“音楽の制作"に相当するからである。

要するにレコード会社のマーケティングは、制作、販売、宣伝のトライアングル体制をいかにうまく機能させるかがポイントである。 →レコード会社と音楽について

しかし“制・販・宣の三位一体"というこの決まり文句は、レコード会社の場合は、ある時期から多少現実にそぐわなくなった。“制・販・宣"のうちの“宣"すなわち宣伝のあり方が、少しずつ変わってきたからである。そのためマーケティングにおける3者の関係に変化が生じるようになった。

レコード会社におけるそのような宣伝のあり方の変化と、それにともなう宣伝部の位置と役割の変化をたどりながら、レコード(CD)のプロモーションの実情と照らし合わせてみることにする。 もちろんメジャーなレコード会社では、このほかに製造、録音、商品管理、物流などを担当するライン組織や、経営企画、法務、人事、経理などのスタッフ組織が存在する。

2. しかしメーカーとしてのレコード会社は、あくまでも制・販・宣が基幹部門であり、これらの機能を担う制作部、営業部、宣伝部の3部門が中枢組織として置かれている。

3部門とも役割 の多様さやそれにともなう陣容の大きさから、部ではなく本部という名称のもとに運営している会社も多い。 日頃からCDを買っている音楽ファンならご承知のように、レコード会社は毎月複数の新譜を発売する。その数はレコード会社の規模によって異なることは当然である。

どの会社でも新譜を発売するための準備が、発売日の通常3カ月前ぐらいから始められる。それはその時期に開催される月例の企画会議(編成会議と呼ぶ会社もある)で、オフィシャルにはスタートする。この企画会議は、メーカーとしてその発売商品を決定する場であり、その意味でレコード会社としては、最も重要な意思決定の場である。

会議の出席者は制作本部、営業本部、宣伝本部のそれぞれの責任者である本部長と、そのスタッフで構成される。個々の会社によって多少異なるが会議の手順としては、まず制作本部の制作ディレクターから自分が制作した発売候補作品や、自分が発掘した新人歌手のプレゼンテーションが行われる。それについて出席メンバーによって検討が加えられ、最終的にその月の発売作品のラインナップが決定する。

発売が決まった作品には、それぞれの作品の販売目標、販売施策、宣伝方策などの検討が加えられる。それは作品のプライオリティの決定でもあり、個々の作品に対する宣伝費・販売促進費の投入額も、ここでの決定に準じることになる。

これらの決定権は実質的には、プレゼンテーションを受ける側の営業、宣伝の人間が持つことが多い。それは営業のスタッフは商品を売る責任を持ち、宣伝のスタッフは商品をプロモートする責務を負っており、制作ディレクターによってプレゼンテーションされた作品やアーティストの市場性について、本当に売れる作品か、本当に宣伝すべき新人か、について正しい判断をしなければならない立場にあるからである。

そして同時に、販売促進費、宣伝費の予算を握っている強い立場でもある。一方では、会議の結果で発売対象から外される作品も出る。

レコード会社のディレクターの間には、「(作品を)企画会議にかける」とか 「(作品が)編成会議を通る」などの言い方があり、会議の当日は緊張のなかでプレゼンテーションに望む。

このようなことから、企画会議は作品の「関所」の機能を果たすものであり、営業部員や宣伝部員は「ゲートキーパー」、すなわち関所を守る役人の役どころである。

いうまでもなくここでの判断は、レコード会社にとって非常に大切で、一歩間違えれば有望な新人歌手の芽を摘むことにもなりかねないし、逆に売れる力のないアーティストの新譜に多額の宣伝費を投入し、大量にレコード店 に売り込んで、売り残しを発生させ、大きなロスを生むことも起こり得る。

このようなレコード会社の企画会議において、宣伝部門に属するプロモーターやその上に立つチーフ・プロモーター、さらには総責任者である宣伝本部長は、営業部門のスタッフとともに、その出席メンバーとして重要な役割を持ち、制・販・宣のトライアングルの一角を担って、レコード会社のなかの基幹部門としての役割を果たしてきた。しかし90年代に入る前後から、彼らの立場には少しずつ変化が起こり始める。


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