1.ヒット曲のほとんどがタイアップソング最近、ポップ・ミュージックのマーケットの二極分化ということを強く感じる。
一つのタイプは、メディアの露出は地上波のテレビの音楽番組や国内ヒット・チャート中心の第一FM局、そして一般雑誌などでの話題づくりとグラビア記事、店頭展開も国内資本のレコード店。

広告もテレビ・スポット、ストリートボード、ビジョンを展開。まずはタイアップでメガヒットのシングルを作り、アルバムにつなげる。

ライブ活動はブレイク以降におこなう。これらのアーティストは、音楽的には誰が聞いてもすぐにでも口ずさめるメロディーで共感できる歌詞。評論家的な評価の対象ではないが、普遍的にこれはいい曲だなと思わせる楽由の力がある(つまりよくカラオケで歌われそうということでもある)。→歌詞が持つ意味と音楽の融合で共感を得れればヒットする

そしてキャラクターは、女性なら若い、かわいい、きれい。男はいわゆるカッコいいというもの。

もうひとつは、地上波のテレビには出演せず、露出はスカパーなどの衛星波。ラジオも洋楽がメインの第二FM。雑誌露出も音楽専門誌中心。タイアップもあまり積極的ではないし、宣伝もはでなことはしない、ポリシーの合わない雑誌の取材は受けないこともある。

外資系のレコード店では積極的にプッシュされている。ライブ・ハウスでデビュー前から活動をつづけ、インディーズでのキャリアもある。

洋楽アーティストも出演するフェスティバルにもステージに立てるような演奏力や存在感がある。海外進出も視野に入れた活動をする。音楽的には音楽評論家も納得するだけのクオリティーとオリジナリティーと先進性がある。

ただし、音楽的にわかりやすかったり、親しみやすくはない。キャラクターもいわゆるカッコいいとかかわいいとかといったものではなく、アイドル性は低い。

どっちがいい、悪いとかの問題ではなく、このどちらにも入らないアーティストは、いまの音楽シーンのなかでは中途半端で、マーケティングやプロモーションの戦略が立てにくいのだ。15年前なら前者のようなアーティストがメイン・ストリームで、後者のアーティストはマニアックと片づけられたら、セールスには結びつかない。

メジャーのレコード会社でも好き者のディレクターが会社に迷惑をかけない程度に地味にやっていたものだったが、かつてマニアックとカテゴライズされたジャンルがビック・ビジネスになる可能性をもつようになった。

こういった音楽的に強いバックボーンをもったアーティストは、一度売れると連続してミリオン・セールスとはならなくてもコア・ファンを獲得して、何年かにわたって長く売れる。そして、レコード会社にとって財産となるアーティストになり、さらに会社のイメージ・アップにもなる。

前者は、時流にのれば、ミリオンあるいはそれ以上のセールスを狙えるが、いわゆる一発屋になる可能性もある。自分の信じた音楽に強い情熱をもち、自分の信じた音楽を作りたいのなら、わき目もふらず自分だけの音楽を追求してはしい。

逆に、自分は音楽的なポリシーがどうのこうのということに興味はない、ただ多くの人に親しまれるいい曲を作りたいというのなら、前者をめざしてほしい。

これまでの経済学・商学の分野における研究の展開において、芸術を研究対象としたものについてみれば、広く捉えて「芸術の経済学」 「文化経済学」という領域が存在しているが、残念ながら欧米に比べてわが国においては、芸術を対象とした経済学分野の研究は、これまで成長主義や政策志向の姿勢から片隅に追いやられていた感のあることは否めない。

「ポピュラー音楽のマーケティング論」という研究の一分野を切り拓きたいという思いから、あえて萌芽的研究として取り組んだのである。

この背景には、いわゆるタイアップソング(ドラマのテーマ曲やCM曲として使用されるCDとして商品化されているポピュラー音楽)の台頭がある。テレビでのヒット曲番組が減少して以降、 ドラマやCMは都合のよいポピュラー音楽のプロモーションの機会となった。

すなわち、ここでは、「マーケティング(あるいはプロモーション)のための音楽」が、同時に「特定のポピュラー音楽のためのマーケティング(あるいは プロモーション)」となっているという関係が形成されているのである。 このような状況はまさに日本的な状況である。

つまり、ポピュラー音楽 の先進地であるアメリカ合衆国においてはCATVの普及によりテレビの多チャンネル化が進み、VH-1やMTVといったポピュラー音楽のプロモーションに特化した形でのチャンネルがあり、わざわざタイアップ曲を作り出す必要性がないことから、わが国のポピュラー音楽の状況とはかなり異なった展開となっている。

このように、タイアップソング、なかでも商品広告のタイアップソングという日本型の音楽状況のなかで、商品とポピュラー音楽とがマーケティングを通じて相互に連動し作用し合う状況をマーケティング論の立場から分析し、今後のマーケティングのありようと方向を明示するための萌芽的成果を提示することが求められる。


2.ヒット曲のほとんどがタイアップソング
「タイアップソング」とは、一応「広い意味でのビジネス利用のため、映画やドラマの企画、あるいは特定の企業や商品などと契約を結んで提携(タイアップ)を行う歌」ということと定義しておく。

例を挙げると、主題歌、挿入歌、テーマソング、あるいは、コマーシャルソング(CMソング)などとして使用され、なおかつ、CDなどとして市販に供される歌となる。

わが国の90年代のポップスシーンを観察すると、ヒットチャートの上位を占めるヒット曲のほとんどすべてが、ここでいうタイアップソングであったという事実が議論の出発点であったが、最近ではリリースされるシングル曲(J―POP系)のほとんどにタイアップが付いているという状況にまで立ち至っている。 このタイアップソングの形態には、大別して2つのタイプがある。

すなわち、 1つ(タイプA)は、商品の販売促進とのタイアップであり、もう1つ(タイプB)は、テレビやラジオの番組、映画、あるいはイベントと音楽とのタイアップである。タイプBはこれまで一般的には主題歌や挿入歌あるいはテーマソングと呼ばれてきたもので、これについては比較的古くからあったものであろう。

これに対して、タイプAはこの10年間ほどの間に急速に増加の一途をたどっているタイアップソングの形態であり、これから詳しくみていこうとするものである。

タイアップソングにはタイプAとタイプBとが存 在しているが、これに加えて、 1つのタイアップソングが、 タイプAとしての性格と、タイプBとしての性格とをともに持ち合わせているとい う場合が見受けられる。こういう場合のタイアップソングを、タイプC、あるいは完全タイアップソングと呼ぶことにしたい。

すなわち、 1つの曲が、商品の販売促進とのタイアップであると同時に、主題歌や挿入歌あるいはテーマソングとしてのタイアップにもなっているというものである。

この先行事例が、美空ひばりの歌った「りんご追分」であった。 さて、青森県りんご対策協議会は、昭和27年に松竹と提携して映画「りんご園の少女」を制作し(制作のために同協議会が提供した費用は 120万円)、さらにその映画の上映協力の費用(65万9,000円)をも拠出している。

この金額はどういった価格指数でもって現在価額に換算するかによって多少の変動はあるものの、地価の上昇率ではないが、もしも現在価額 に換算する作業を行えば、驚異的な価額になるであろうことは想像に難しくない。

現在でいうならば、安室奈美恵か浜崎あゆみ、場合によっては松田聖子というような、いまをときめく女性歌手をフィーチャーしての企画である。あの有名な、誰でも口ずさむことのできる美空ひばりの「りんご追分」は、この映画の主題歌であった。

そして、この映画は津軽平野のりんご園を舞台にストーリーが展開された。この歌と映画とりんごとの完全なまでの強固なタイアップソングの三角形の形成は、現代でも類をみないものであった。

りんごの産地は青森県以外にも、当時から岩手県、北海道、長野県などいくつかの産地が存在してきたけれども、このプロモーション戦略の成功により、青森県はりんごの産地としての不動の地位を確立させたのであった。

この事実は、同時に、タイアップソングがマーケティング・シーンのなかで時代を超えて有効な手法であることを物語っているといえよう。

また裏返していえば、当時の青森県のタイアップソング・プロモーションは、現代のプロモーション戦略でも最先端を行くイメージソング戦略に優るとも劣らないトレンディーかつ粋を凝らしたプロモーション戦略であったということもいえよう。

グリコのポッキーはイメージを一新し、任天堂ゲームソフトも売上げ爆発、アニメ「ポケットモンスター」も社会問題化するほどヒットしたのである。

このように、タイアップソングにまつわるこのような相乗作用は絶大なものがあるといえよう。 80年代後半以降顕著にあらわれ始める、タイアップソングを通じての 企業と音楽との相互作用として、ポピュラー音楽と商品の相互作用というのは、ポピュラー音楽と商品の相互のマーケティングであるというのが、このような状況を端的に表した構図なのである。

言い換えれば、商品のマーケティングのためのポピュラー音楽が商品を通じてポピユラー音楽それ自身のマーケティング活動に一役買っている。

さらにいうならば、「マーケティング活動のためのポピュラー音楽」が、結果としてまったく裏返しで、「ポピュラー音楽のためのマーケティング活動」となっているという興味深い相互作用が現出している。

さらに細かくみれば、ポピュラー音楽の側では、プレイヤーとして、作詞家・作曲家・演奏者・歌い手などからなるアーティスト(事務所)、レコード会社、プロデューサー、プロダクションなどが、前述した4Cを戦略的に構成しながら、マーケティング・パフォーマンスの最大化を追求している状況が構図化されている。

一方、商品の側では、プレイヤーとして、メーカー、ホールセーラー、リテーラーが、古共的なマーケティング・ミックスの変数であるマッカーシーの4Pを戦略的に構成しながら、マーケティング・パフォーマンスの最大化を追求している状況が構図化されている。

この両サイドを調整する仲介者として、広告代理店が重要な役割を担っている。そしてなによりも重要な点は、そこにリスナー=消費者が介在して、音楽と商品との評価者としての役割を果たしていくという点である。


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