1.タイム感とは
タイム感やリズム感が音楽では必須
歌の世界では「タイム感」という言葉がよく使われます。意味は読んで字のごとく、時間の感覚です。
時間といっても、いま何時何分という感覚ではなくて、リズム感に共通する感覚です。

リズムには2拍子(2ビート)、3拍子(ワルツ)、4拍子(4ビート)、8拍子(8ビート)、16拍子(16ビート)など、いろいろあります。歌う場合も演奏する場合も、リズムに合わせるのが基本です。しかし、日本人の場合どうしてもリズムの上に歌を早く乗せようとする歌い方になりがちなのです。すると、例えば16ビートの曲を歌おうとするとき、リズムが速く細かすぎて、リズムについていくだけでやっとという状態になってしまいがちです。要は焦ってしまうのです。

でも、実は16ビートというのはもっと「穏やかな」リズムだと思ってください。
どこか矛盾している説明ですが、「穏やかに」歌うために16ビートというリズムを考え出したと言っても過言ではないでしょう。

例えば、ブラック・コンテンポラリー・ミュージックの人気グループ、アース・ウィンド&ファイアーなどは、とても速く細かい演奏をしたかったのでしょう。チョッパー・ベースもやりたい、あれもこれも、いろいろなことをやりたい、そのためにはどのような演奏形態がいいのかと考えた結果、身体では2ビー卜を感じつつ、速いことができるというのが16ビートだったのだと考えられます。つまり、大きな「ワーン、ツーウ、ワーン、ツーウ」という2ビートの中に、「ダカツクダカツク…」という細かい演奏を自由白在にちりばめることが可能になりました。しかも裏拍の裏といった考えも及ばないタイミングでシンバルが鳴ったりします。あれは、すべてのリズムが見えている、つまりタイム感を長く感じているからできるのです。

言いかえれば、リズムを俯敵して捉えることができるかどうかということです。
ところが、リズムで埋没してしまうと目先のリズムに気を取られすぎて、曲の全体を把握することができなくなってしまいます。こうした感覚を身につけることによって、歌を一定のフレーズの中で自在に変化させることも可能になります。それが後述する「フェイク」や「アドリブ」にも通じてくるのです。
ですから、タイム感は歌を歌う人にとって、とっても大切な感性なのです。


では、このタイム感を勉強するためにどうすればいいのかというと、それは、ただひたすら「ワン、ツー、スリー、フォー」をちゃんと練習すること、つまり「4ビート」を感じることなのです。

タイム感を養う実践練習
もう少し、わかりやすく説明しましょう。
タイム感を身につけるためにもっとも役立つ練習は、4ビートを感じながら「楽譜」を読むことです。
楽譜は小節ごとの縦線(バー)で区切られています。4/4 (4分の4拍子)であれば、4分音符が4個分で1小節になります。歌の楽譜を見てみましょう。小節ごとにいろいろなメロディが音符として記載されていますよね。

その楽譜を見ながら、常に「1234、1234…」とカウントすることです。特にフレーズの頭にあたる「1」のリズムには意識を集中してほしいのです。

そのためには、カウントしながらフレーズが続いてきて「1」へ移る直前のカウント「…34」を強調します。毎小節そのようなことをするのではなく、AメロからBメロに移る小節や、サビのメロディに入る直前のカウントを意識的に強調してください。このような練習をすることで、リズム感が養われる以外に「長いフレーズのタイム感」を養うことができます。

歌というのは、たいていAメロ、Bメロ、そしてサビ、繰り返し…というような一定の構成になっています。つまり、タイム感を長く感じるということは、曲の構成を全体的に把握して、曲調を感じ取るということにほかなりません。

最初は「そんなこと面倒くさい」と感じるかもしれませんが、このタイム感を身につけるのとつけないのでは、後に歌のうまさに雲泥の差が出て来ます。馬鹿馬鹿しいなんて思わないで、とにかくあなたの身体に染み込ませてください。

ポイント
身体でリズムを感じるようになるために、とてもいい練習法があります。ボーカルレッスンの教室では軽い左右のステップを繰り返すことで、身体にリズムとタイム感を覚えさせます。
ぜひ、試してみてください。

4分の4では「1234」で一往復します。例えば、最初左にあつた重心を「12」で右へ、次の「34」で元の左へ移動するのです。

これがワンストロークになります。そのとき、手で「1234、1234」と叩いたり、声に出して「ター、ター、ター、ター…」と口ずさんだりします。これは4拍子のリズム。つぎは8分音符で「12341234、12341234」と叩きます。口では「タタタタタタタタ、タタタタタタタタ…」。そして、次は16分音符で「1234123412341234、1234123412341234」と叩き、口では「タタタタタタタタタタタタタタタタ、タタタタタタタタタタタタタタタタ」となります。これはちょっと忙しいですよ。

それができたい、今度は3連符で4分音符を3つに分けた「タタタ、タタタ、タタタ、タタタ…」を練習しましょう。
これは友達同士でやっても楽しいですよ。最低でも8分音符のリズムまでは刻めるように練習をしましょう。

2.歌詞を声に出して読む
次は、歌詞を楽譜に書いてあるとおりのリズムで読みます。必ず声に出して読まなくてはいけません。

ハミングもダメ。言葉として声に出すことで、感情移人がスムーズになるからです。曲によっては「キス」なんて言葉も出てきますから、口に出して言えないなんて恥ずかしがりやさんもいるかもしれません。でも、この練習を続けることで、今まであった恥ずかしさもなくなってきますよ。そして、自分の心の中にいろいろな感情の種類が増え、歌うことで心から感じられる力が自然と強くなるのです。

これは、プロの歌い手でも同じ練習をしています。そして、口に出して読むことで、歌詞の内容が独り言なのか、呼びかけているのか、電話の相手なのか「歌の中の距離感」がわかるということが重要なのです。歌いかける人への距離感がわかるだけで、かなり感情も違ってきます。まず、歌の心を理解することなのです。

このとき、メロディはまだつけなくてもいいです。とにかく楽譜どおりに、リズムを刻んでください。

均等にリズムを打つ練習を
楽譜を見ながら、符割りどおりに声を出します。このときも音程はつけなくていいので、リズムにはめる練習をします。楽譜が苦手な人なら、耳で聴いて練習しても構いません。これは、リズム感の基本が身につきます。メトロノームがあれば、そのテンポに合わせることがポイント。テンポが「もたった(遅くなる)」り、「たった(速くなる)」りしないことが大切です。均等にリズムがうてるようになりましょう。

これが第一歩です。
最近では、音が「ビッ、ビッ」と鳴るだけのメトロノームがありますが、できれば昔ながらの振り子のついたメトロノームをお薦めします。
なぜかというと、振り子の揺れを目で見ることができて、視覚と聴覚の両方でリズムを感じるという効果があるからです。

ブレスのポイント=休符をチェック
そして、楽譜をよく見てどこが休符なのか、すべての休符をチェックします。そこがブレス(息継ぎ)のポイントになるからです。途中で息が続かなくなって変なところでブレスをすると、たちまち歌の説得力がなくなってしまいます。ここまでの練習をちゃんと続けていれば、実はブレスはとても簡単にできるはずなのです。なぜかといえば、ブレスは呼吸です。歌いながら自然に息つく場所ですから、とてもナチュラルにブレスができるはずなのです。

それが、ズレるということはリズム感、タイム感がまだまだ身についていないという証明でもあります。
話をすることがあまり得意でない人っていますよね。そういう人の喋り方というのも、実はリズム感が悪いということが原因になっていることが多いのです。ですから、そういう人に「1234、1234…」

というカウントの練習をしばらく続けてもらうと、喋ることが楽になったと言われます。息継ぎが楽になり、喋ることも楽しくなったので、商売がうまくいくようになったという人もいます。ですから、逆に話し方が上手な人って、リズム感のいい人が多いですよね。
このように、人間の身体はリズム感をもって生きているので、もう一度意識的に練習することで、その潜在能力が顕在化することになるわけです。→声には疲労が影響するので歌の練習は1日2~3時間が限度


生活の中でもリズム感を
例えば、歩くときにも意識してリズムを刻んで歩けば、それも立派な練習です。また、車に乗っているときにラジオから流れる音楽を聴いていて、突然トンネルの中に入ってラジオの音声が途切れてしまったとします。

でも、そのまま歌い続けて、トンネルから出たときにふたたびラジオから流れてくる曲と自分が口ずさんでいる歌が合っていれば、リズム感が正確だったということです。そんなことも練習になります。他にも車のウィンカーやワイパーの往復、電車に乗っているときのレールの規則的な音などもいい「教材」といえるでしょう。世の中には、このような規則正しい音が数多くあります。このような練習は、歌のジャンルにはまったく関係がありません。

J‐POPでも、演歌、民謡、クラシックでも、音楽すべてに共通する練習といえます。
練習や訓練というと、とても辛そうなイメージなので、むしろゲーム感覚で遊びながらリズム感や、タイム感を身につけてほしいですね。
ここで言いたいのは「私の歌いたいのは民謡だし、演歌だからリズム感なんて関係ない」とは決して思わないで欲しいのです。

例えば、民謡出身の長山洋子はアイドル歌手でデビュー、ショッキング・ブルーの『ビーナス』が大ヒットし、その後は演歌歌手に転身して成功をおさめています。特に民謡出身者は発声ができているので、歌を歌わせればどこのパートでも声が出ていて申し分ないのです。ただ、民謡にはリズムやビートを刻むという感覚があまりなく、むしろ流れるような歌い方をします。でも、そこにタイム感やリズム感が加われば、さらに新しい解釈、表現を持った民謡や演歌の世界が生まれ、さらなる可能性が広がることでしょう。

しつこく言いますが、つね日頃からこの「1234…」を意識しましょう。
4ビートで生活するということですね。


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