発声方法は音楽ジャンルによって声をコントロールすることが大切
1.発声と歌心
よく「音楽のジャンルによって発声の仕方は変わりますか?」という質問をいただきます。確かに、聴く限りではオペラと演歌は歌い方が違いますから、発声も違うだろうと思いがちです。

しかし、結論から言えば、音楽ジャンルによる発声方法の違いは全くありません。全部同じです。人間の身体のシステムが声を出すわけですから、ジャンルによっての違いはないのです。おもしろいのですが、同じ発声をやっていても、シャンソン、ジャズ、ラテン、カンツオーネなどを歌わせると、その人がどれだけそのジャンルの音楽を知っているかによって、ガラリと変わってしまいます。

例えば、クラシックを勉強した方がシャンソンを歌ったとします。そのとき、まるでオペラのような歌い方をしたら、その人はシャンソンを知らないのでしょう。シャンソンはそんな風に歌うものではなくて、語るように歌うものです。ですから、その歌をどこまで知っているかが大切です。何でもかんでもクラシック風に歌えばいいというものでありません。

ですから、それは発声が違うのではなくて、歌を歌う心を知らないだけなんです。
例えば、クラシックのオペラ歌手でも、ロックが好きであれば、ちゃんとシャウトした歌い方もできるわけです。

ところが、発声はちゃんとできているのに歌が歌えないと悩んでいる人が、以外に多いのです。クラシックを勉強してきたある女性は、中島みゆきの歌が好きで歌いたいといってボイストレーニングに通い始めましたが、すべてクラシックの声楽の歌い方になってしまいます。
ですから、逆にその人には中島なゆきのものまねをしなさいと、アドバイスをしました。

すると「いいんですか? 真似しても…」と言うので、「いいんです。真似はいいんです。どんどん真似してください。真似することによって、その歌手の歌の心がわかるのだから、そうやって歌ってください」と言いました。
「でも、発声が」と言うので、
「発声は忘れてください」と言ったのです。

発声というのは、歌う形ではありません。歌うための身体をつくることなのです。
実は、この人のように「発声」と「歌うこと」を混同している人って多いんです。ここはぜひみなさんも混同しないようにしてください。→発声練習とフェイストレーニングで自分の声の幅を広げよう


2.声のコントロール
さて、この歌心と関連していることに「声のコントロール」という考え方があります。例えば、クラシックの声楽を習得した歌手が、ジャズを歌おうとしていると考えてください。お腹の底から響き渡る発声を身につけているその歌手が、ジャズのスタンダード『ニューヨーク・ニューヨーク』を歌うときに、プッチーニの歌劇『トゥーランドット』の『誰も寝てはならぬ』のようなハイCを張り上げるような歌い方をして、意味があるでしょうか?はっきり言って必要はありません。

ジャズは響きがちょっと鈍いほうが合うし、カッコいいのです。マイルス・デイビスのトランペットは、よくミュートされていました。本来、マイルスは「ピーッ」という音を出せるけれども、わざわざミュートをかけ、そこで表情ができる。これがコントロールなんです。歌の世界でいえば、「ボイス・コントロール」です。

出るけど、出さない。出さずに溜めたり、我慢したりすることで、また美しさが生まれるわけです。
そこに美があるわけです。それこそ、ワビサビといってもいいでしょう。
やりすぎないことです。

酔っ払ったおじさんが、昔取った杵柄ではないけれども、ちょっとかじった声楽で『マイ・ウェイ』を歌ったりすると、周囲はしらけてしまいます。つまり、歌のうまい下手は、発声ができているということだけではないのがわかりますね。もう一言、辛らつな言い方をすれば、声を聴かせたいのか、歌の心を聴かせたいのかどちらなのか、ということです。

オペラの場合、「声を聴かせる」ことが基本ですが、同時に物語も伝えなければなりません。その物語の内容を、声そのもので表現しょうとしているのが声楽家なのです。
それに対して、普通の歌手は「歌の心を聴かせる」ことが基本なので、そんなオペラのような声を使わなくてもよろしいですよ、ということなのです。

シャンソンは、囁くような歌い方もします。けれど、偉大なシャンソン歌手の人たちは、すべて発声の練習はしています。ロックの大御所、ボン・ジョヴイは発声の訓練にイタリアのオペラを歌っているそうです。逆に言えば、それくらいの発声ができていないと、ロックは歌えないということでもあるのです。

自分の可能性は限りなく広げておいて、歌う場合にはそれをひけらかすのではなくて、むしろ抑えて歌心を聴かせる。それが、うまい歌い方といえます。
言葉を換えると、味のある歌い方ですね。

音量のコントロール
声のボリュームは肺からの空気圧を上げる、つまり思いっきり息を出せば大きい声になると思いがちです。確かに、思いっきり息を吐き出すことが必要な場合もあります。しかし、それ以上に声帯がボリュームをコントロールしているということは、あまり知られていません。歌のうまさの重要な要素は、ボリュームのある歌声です。弱々しい貧弱な声では、聴いているほうが辛くなってしまいます。

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