声帯や声を出すメカニズムは複雑なようで簡単だった!
目次
1.声のメカニズム
まず、声のでるしくみから説明しましょう。
顎の下の、俗にいうのど仏のあたりに指をあててツバを飲んでみてください。かたいものが上に上がってまた下がるのがわかるはずです。私たちの声は、このかたいもの(喉頭という)の中にセットされた声帯という楽器によってつくられます。声帯は2本のゴムひものような伸び縮みする振動体で、これが振動して声が生まれるのです。
というと、ばかに簡単なしくみのようですが、そうではありません。声帯自身の振動が音をつくりだしているのではないのです。声帯を閉じたり開いたりするための神経と筋肉あるいは声帯という楽器を奏でる原動力である肺からの空気。こうした複雑な働きがあって声が生まれるのです。
もう一度のど仏に手をあててハーと息を出してみてください。そして次にアーと大きな声を出してみましょう。息のときには振動しないのに、声を出したときには指先に振動が感じられますね。これが声帯の振動です。
男性の場合、首を横から見るとのど仏が出っぱっており、アダムのリンゴとも呼ばれています。なんでも、アダムがリンゴを食べてから飛びでたとか。日本の場合、のど仏といわれるようになったのは、人間が骨になったとき、仏像に似た形の骨として残るのが、こののど仏であるといわれたからでしょうか。
もちろん女性にも、男性ほど飛びでてはいませんが、のど仏はあります。この軟骨はちょうど本を首のうしろに向かって半開きしたような形で、甲状軟骨と呼んでいます。
声帯は、こののど仏のやや下方を基点にして、左右1本ずつが頸椎の方向に向かってほぼ水平に位置しており、呼吸時はV字形に開きへ発声時はこの左右の声帯が閉じたところへ、下からの呼気があたって振動を起こし、呼気流が音をつくるのです。→歌うときも話すときと同じ自然な呼吸の仕方を意識する方法
破れた障子の小穴に隙間風が吹き込むとき、ビューンと、うなり声をたてることがありますが、私たちの声も、閉じた声帯の間を肺からの空気が通り抜けるときにつくられています。
しかし、声帯が振動しただけで、声ができるわけではありません。この段階での声は喉頭原音と呼ばれ、つやも響きもない「ブォー、ブォー」といったひどい声なのです。低い声の男性でも、高い声の女性でも、喉頭原音だけの段階では音色的にあまりはっきりした差はありません。
2.声の調節をする声帯の働き
首の前のほうから甲状軟骨が盾のように湾曲してあり、うしろは筋肉や膜で覆われています。甲状軟骨の下には、受け皿のような輪状軟骨があり、甲状軟骨の上には舌がついているふた舌骨があります。舌骨と甲状軟骨の間には喉頭蓋という蓋がついています。声帯は甲状軟骨の前の部分(顔の面の中央から、うしろ(頸椎の側)に向かって2本、うしろが開いた形でついています。声帯から下は気管になり肺へとつながっています。気管のうしろ側に気管と平行して食道があります。
喉頭蓋は倒れたり起きたりする機能をもっているのですが、これは食べ物などを飲み込むとき、食べ物が気管のほうへ入るのを防ぐため、うしろに倒れて声帯にかぶせ、気管の入口に蓋をして食道のほうに食べ物を通します。
逆に発声するときは喉頭蓋が開いて、上のほうに空間をつくり、声帯の振動した音を共鳴させることができるのです。ですから、食べ物を飲み込むときに声を出すことは不可能です。あわててものを食べたりしたときに気管のほうへ食べ物が入っていきそうになってむせることがありますが、喉頭蓋の調節がうまくいっていないためです。
声帯の後端には披裂軟骨という軟骨がつながっていて、この軟骨の動きで声帯が開いたり閉じたりします。
しかし、披裂軟骨は単独行動をとっているわけではなく、さらにこの披裂軟骨を動かす筋肉に支配されているのです。
声帯の周辺には、このように声帯を開閉したり、声帯の緊張を調節して声の性質を変えるための筋肉があります。
①横筋
披裂軟骨を動かして声帯の後端を閉じる筋肉。
②側筋および外筋
声門中央部を内側に接着させる筋肉。
③後筋
声帯を開く働きをする。声門を開く筋肉はこれ一対しかありません。
(望則筋前後に声帯を引っぱる。この筋肉は声の高さの調節をおもにつかさどっています。声の強さとか地声とか裏声の声区などには二次的に関与しています。
④内筋
声帯自体を厚くしたり薄くしたりする(声帯筋ともいう)。声帯の形を変えるための調節をして、声の高さ、強さ、声区などすべてに関係しています。なかでも強さと声区の変化にいちばん関与しています。
「声を高くしたいときは、前筋をもっと鍛えればいいし、力強い声にしたければ、内筋を鍛えればいいわけですね」
早合点するひとはすぐこうおっしゃるのですが、そう簡単にはいきません。残念なことに、こうした筋肉を単独に意識的に動かすことは、たいへんむずかしいのです。しかも一本一本筋肉が独立してあるわけでなく、総合的に関与しているので、声を使いながら喉頭の深部感覚を自分でつかんでいくほかないのです。
ヴァイオリンなら4本の弦を使い分けられますが、声帯はたった一対で、しかも2mたらずの小ささ。これを変化させて声を使い分けるのです。発声法が先生によってまちまちなのも、こうした事情があるわけです。
3.声のコントロールタワーは大脳
発声のための筋肉を動かす命令は、大脳から出されます。そのしくみを簡単に説明します。発語の場合は、大脳でまず考える。そして言語を組み立てる(内言語という)。次に中枢神経から運動神経を伝わって末梢神経に命令が届き、発声のための筋肉が動く。その声が口などを通り、言葉となるわけです(外言語という)。
たとえば、「痛い」という言葉を口にするまでの過程をたどってみると、外から入ってきた刺激は大脳中枢にいきます。ここにはそれを受けとめて判断する2つの皮質があります。いちばん外側の新しい大脳皮質と古い皮質の2つです。
新しい皮質のほうは、おとなの場合に発達していて、高等な仕事(遠慮、後悔、恥じる、あがるなど)を担当しますが、古い皮質のほうは単純で、衝動的で、赤ん坊や子どものもっている、比較的感情(本能)に支配されやすい部分を担当しています。動物的な皮質といっていいかもしれません。「痛い」というような判断はこの古い皮質で行われます。
「痛い」という感じを表現しようとすると、今度は、大脳皮質の前のほうにある運動中枢に「痛い」と言え、という命令がいきます。そして運動中枢から神経を伝わって末端に届き、声帯などの発声器官や舌、唇、軟口蓋といった構音器官に伝わり、声や言葉になった音波として出るわけです。これを瞬間的に行っているのですから、人間の体のしくみとはたいへん精巧なものです。
ここでは「痛い」という単純な例をとりましたが、むずかしい問題を考えて話をしたり、ウキウキしてハミングをしたり、オペラを演じたりする場合も、命令をくだす大脳の中枢部分が変わるだけで、同じようなプロセスで声を出しているのです。
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