音楽療法とは
音楽を聴いて音楽療法の効果音楽療法は、 第二次世界大戦後の傷病兵の治療や患者の痛みの緩和のために音楽を使ったことがきっかけ、だと言われています。

人間のからだが痛みを感じるのは、自律神経終末と呼ばれる小さな感覚受容器(レセプター)。

この痛みも含めた人間のすべての感覚が神経を通して実際に「痛く」なったり、「興奮」したり、気持ち良くなったりするのは、ある具体的な信号(この場合は「痛み」でもいい)が神経細胞(ニューロン)の神経線維の中を電流として流れ、そして、この電流が他の神経細胞との接合部(シナプス)で神経伝達物質(化学物質)を放出させ受容器(レセプター)と結合し、次の神経細胞(ニューロン)を発火させるからなのです。

ではどうしたら体内に放出させれるのかというと…快楽を感じればβエンドルフィンやセロトニンなどが放出される。そのために最も有効な手段が音楽なのです。


音楽の効果
しかし、音楽を含めた人間が感じる快楽には劣化を抑制する効果があると言われています。

それが、音楽が人間の老化を防ぎ、病気の臨床治療や老人医療にも役立つと言われている根拠の一つにもなっているのです。

音楽を聴いて感動したり涙が出たりするのは、脳内麻薬の一種βエンドルフインが視床下部から分泌されるからだとも言われていますが、それが音楽が人間にとって「快楽」になっている証拠でもあるのです。

しかし、本当の意味でガン治療やさまざまな疾病に対する療法として音楽を有効に活用していくためには、音楽と人間の免疫システムの相関性や、人間の脳の研究、セロトニン、βエンドルフィンなどの神経伝達物質のさらなる研究が必要になってきます。


音楽と医療
音楽はある意味、古代から現代に至るまで人間にとっての「薬」であり続けています。

古代においては多くの病魔を追い払うための「呪術」に、音楽は欠かせない道具でした。

私たち人間の原始社会において、音楽を行う人間はメディシンマンであり、医療を行う人間でもあったのです。その意味でも、これから先の未来における音楽の「医療」としての役割はとても重要です。

音楽を「薬」として使い、そして、人間の「幸福」のために役立てる。そこではじめて、私たち人間にとって音楽の意味が一つ解き明かされることになるのではないでしょうか。


集団作業療法の一環として行われる音楽療法
脳血管障害、認知症、ストレス性疾患などの予防・治療など総合的なリハビリテーション病院の場合は、治療にもいろいろなチャネルがあったほうがいいとの考えにより、十年前から音楽療法の導入に踏み切った。

入院病棟、外来のほか、認知症のデイケア施設もあり、病院とは別な場所で介護老人保健施設も運営しているため、集団セッション、グループセッション、あるいはオーダーがあれば個人セッションも含め、毎日どこかでセッションが行われている状況だ。

リハビリテーション科に所属し、作業療法士や言語聴覚士といったリハビリの専門職と組んでセッションを展開しているが、プログラムづくりは専門家に一任されている。

したがって、幅広い年齢層のクライアントに対応できるよう、曲のレパートリー、すなわち自分の音楽の引き出しはできるだけ増やしておきたいところだ。その際、曲にまつわるエピソードなども知識として持ちあわせておく必要がある。

そして、セッションごとにクライアントが生きてきた時代背景を知り、クライアントの琴線にふれることのできる音楽を探り出し、自分の引き出しのなかから、その都度、選んで提供していく。

たとえば、認知症の入院フロアでは集団歌唱を中心にしたセッションが行われる。参加人数は約二〇名。歌唱プログラムは七十~九十代の高齢者が青春を謳歌していた、昭和や大正のころの懐かしい曲が多い。

まずは唱歌から入り、懐かしの歌謡曲や民謡で徐々に気分を盛り上げていき、最終的には「夕焼け小焼け」「赤とんぼ」「朧月夜」といったこどものころの原風景が描かれているような叙情的唱歌で終わるというのが一般的な流れだ。

模造紙に美しい文字で筆書きされた歌詞幕は、書道の有段者である人の手によるものだ。歌詞幕はそれぞれ同じ大きさに折り畳み、おおまかにジャンル分けして並べておく。

それらのなかから「次は何にしようかな」という感じで、 一曲ずつおもむろに選んで貼り出していく。こうしたゆったりした「問合い」も、意識的に計算されたものだ。

もちろん、その日に歌う曲はあらかじめ決めてはいるが、患者たちの反応を見ながら臨機応変に変えていく。

また、同じ認知症患者に対して行う集団セッションといっても、認知症の度合いによって当然、内容が違ってくる。一閉鎖病棟と開放病棟など、フロアごとに雰囲気がまったく異なりますし、同じ患者さんでも日によっても様子は違ってきます。

参加されたみなさんにできるだけ満足していただけるよう、選曲を含むプログラムの構成には気を使いますね」
そのため、セッションをはじめる三十分から一時間前には会場に入り、準備を進めつつ患者たちに話しかけたりしながら様子をうかがうようにしている。

対象が変われば中身も変わるため、季節感の演出などでは多少重なるところはあっても、同じことをやることはまずない。まさにライブ感覚で、伴奏のつけ方、アレンジなどもその都度変えているという。

このように音楽療法の実践においても、先にふれた幼児リトミックと同様、本来はマニュアルは存在しないはずである。

「あったらおかしい」というが、団体によっては、共通のマニュアルをつくってセッションを進めようとしているところもあるという。しかも、高齢者に対してもこどもに対しても同じマニュアルでセッションを行っているといった話もある。

そんな状況を憂えながらも、自分としてはこれまで実践してきたスタイルを貫くまでだ。伴奏に用いるのは電子ピアノである。そこで大切なのは、歌いたくなるような雰囲気づくりだ。

「さあ歌いましょう」などと言葉で誘うことはしない。そういわれたからといって簡単に歌う気になれるものではないだろう。音楽で誘い水を向け、どれだけその気にさせられるかが伴奏者の腕の見せどころである。

「高すぎず、低すぎず、その患者さんに合ったキーの高さを提供できるか。

また、メンタルテンポといって、その日の精神状態によって一人ひとり心のテンポが違います。イライラしたり焦っていたりすると速くなり、落ち着いていればゆったりしたテンポになります。そうしたメンタルテンポに配慮した音出しも必要になってきます。

ただ、個人のセッションと違って集団の場合は、どのあたりに照準をおけばいいかがむずかしく、全体の空気を読み取っていかなければいけない。

最初は伴奏なしで、歌いはじめの歌詞をさりげなく吟じたりすることもある。すると、セッションに参加した患者も一人二人とついてきて、自然に歌がはじまる。そこでキーの高さを探りながら前奏を弾き、改めて合唱がはじまるという。

普通のピアノでキーを変えようと思ったら転調していかなければならないが、電子ピアノにはキーを自在に上げ下げできるトランスポーズがついているため、その点は便利だという。

「毎回というわけにもいきませんが、自分が意図的に投げかけた音で、患者さんたちの表情がパッと変わり、集団がいきいきとわき立ってくる瞬間があるのです。そんな様子を目にすると、やはり音楽にははかりしれない力があるように思いますね」

認知症など高齢者を対象としたセッションで提供する曲は、童謡、唱歌、歌謡曲、民謡など。

「私自身は戦争を体験していないので、軍歌は本当の意味で理解しきれていないような気がします。

ただ歌えるというだけで提供するのはまずいと思うのです。軍歌を歌うとたしかにすごく声も出ますし、気持ちを奮い立たせるなど、賦活剤としての効果はあるかもしれません。

でも、軍歌はみんながいい体験として心に刻みつけられているとは限らず、人によっては悲しい体験を思い起こさせることになってしまうかもしれません。集団セッションでは、その辺の気づかいも必要でしょう」

レパートリーは年々増えつづける一方で、いまでは「自分でも数えたことがないのでわからない」ほどだという。若い人のセッションになると、さらにJポップなども入ってくる。

ほとんどの音楽療法士が持っているという歌本は、通称″赤本″と呼ばれ、上・下巻に分かれている。上巻は昭和の歌謡曲がほぼ網羅されており、下巻には昭和の終わりから平成にかけての曲が収録されているという。

「赤本の上・下巻はなんとかクリアできていると思うのですが」という。ちなみにその歌本には、伴奏用に右手のメロディと簡単なコードが記されているだけで、音楽療法士はそれを自分なりにアレンジして弾くのだという。