音楽出版社の楽曲管理や作家、アーティストとの関係など裏情報公開
著作権に精通していれば、音楽出版について理解することは非常に簡単である。その仕組みは、次のようになっている。
音楽出版社の仕事
クリエイティブなアーティストは、ビジネスに関心があっても、その才能は創作活動で最も発揮されるものである。しかし、誰かがビジネス面の世話を焼かなくてはならない。そこから生まれたのが、音楽出版業界である。音楽出版社の人間は、ソングライター(作家)のところへ行って、次のように演説するわけである。
あなたには曲を作る才能がある。私にはビジネス処理の才能がある。そこで次のような取引をしようではないか。あなたの作品の著作権を私に讓渡してくれたら、引き換えに、私がビジネス面のすべてを引き受けよう。あなたの楽曲を使う人間を見つけ、彼らに許諾を与え、必ずあなたが支払いを受けるようにする。そのお金をあなたと私とで山分けしようではないか。
楽曲管理
今述べた諸権利、つまり、使用者を見つけ、これに許諾を与え、お金を徴収し、作家に支払うといった権利は、“楽曲管理権’ と呼ばれている。音楽出版社が作家と標準的な取り決めを結んだとすると、音楽出版社は以上の事柄(著作権者のすべての権利とともに) を行なう義務を負い、楽曲を管理する。
音楽出版社は全収入を50:50で作家と分けるのが慣例である。音楽出版社の50%は、自分のところの間接費(オフィス、スタッフなど) と利益である。稼いだ中から出版社がキープする分は“出版社取り分” と呼ばれ、もう一方は、ご想像のとおり“作家取り分” と呼ばれる。
歴史
楽譜出版社に対する評価というものは長年にわたり、功罪相半ばするものであった。こんな話がある。ある作家が週末、音楽出版社の人間と一緒にキャンプ旅行にでかけた。バックパッキングでハイキングを続け、腰を下ろしたところで突然、ピューマが現れた。ふたりともすくんで動けなかったが、ピューマはしだいにうなり声を上げながら近づいてくる。
作家がふと横を見ると、連れは自分のバックパックを下ろそうとしている。作家が「どうするつもりだ。ピューマより速く走ることはできないよ」と言うと、連れはこう言った。「ピューマより速く走れなくたってかまわないさ。あんたより速く走れればいいんだ」
世紀が変わり、1940年代もかなり進むと、音楽出版社は音楽産業で最も強力な存在になっていた。当時、自分で楽曲を作るアーティストはほとんどいなかったので、また、主だった作家は音楽出版社の支配下にあったので、アーティストは出版社の思うがままであった。先に述べたとおり、音楽出版社の許可がなければ、誰も最初に楽曲を使用することはできない。
つまり、有力な新しい作品をどのアーティストに録音させるかは、出版社が決定するならわしであった。また、この力ゆえに、作家が有力な出版社と手を組まずに自分の作品を売り込むことは、不可能ではないにしる困難であった。
音楽出版社の現状
歴史は今や、有力出版社の機能が銀行業務の域を出ないことも珍しくないというところまできている。彼らは所定の契約からどのくらいの利益が見込めるかを計算し、その一部分を関連諸権利の取得のために支払う。中には“クリエイティブ”な出版社もあって、自分のところの作家を他の作家と組ませたり、作品の微調整を手伝ったり、作家に相応しいアーティストを見つけてきたりもする。
しかし今では、このような音楽出版社と契約している有力作家はそれほど多くない。というのも、主だった作家は自分の音楽出版社を持っているからである。このようになったのは、作家として名前が売れると、音楽出版社と同じように容易にアーティストと接触できるからである。
また、自分で作品を作るアーティストがますます増えているので、音楽出版社から楽曲の提供を受ける必要はないわけである。これらの要因すべてが原因となって、音楽出版社の役割は小さくなってきた。有力な音楽出版社が今も業界で大きな力を保っているのは、その巨大さのためであって、昔ほどの影響力はない。
このため、音楽出版業界はレコード業界とは異なり、メジャーの支配にはほど遠い。もちろん、メガトン級の音楽出版社もあるが(ワーナー/チャペルやEMIなどは、世界中で営業しており、年間何千万ドルも生み出している)、巨人を相手にひとりですべてをこなしている業者も無数にある。ここで、さまざまなタイプをかいつまんで説明しよう。
900ポンドのゴリラたち大会社の多くはレコード会社や映画会社、またはその両方と提携している。たとえば、ワーナー/チャペル、EMI、MCA、BMG、Irving/Almo
(A&Mレコードの前の所有者が所有) 、ジョーバット・ミュージック(以前はモータウン・レコードと提携) 、FamousMusic(パラマウント・コミュニケーションズ社が所有)
などがある。とはいっても、このようなゴリラたちの体力には相当な開きがある。EMIやワナー/チャペルは明らかに900ポンド級であるが、ジョーバット、Famous、Irving/Almoなどは500ポンド級といったところであろう。
メジャーとの提携出版社スタッフとして専門家をフル装備し、その“管理部門”についてはメジャーにまかせているというインデペンデントの音楽出版社も多い。たとえば、ケフイン・ミュージックはDavidGeffenの音楽出版社で、MCAが楽曲管理を行なっている。それより小規模な例も多数ある。
出版社とメジャーとの提携は、世界規模の場合もあれば、特定の地域に限定される場合もある。たとえば、ある音楽出版社が合衆国ではメジャーと提携し、それ以外の国々では(他の音楽出版社と)別個のサブパブリシング契約を結んでいる場合もあるのだ。
独立型(スタンドアローン) スタンドアローンとは、ケーブルTV界からの借用であって、業界用語ではない。ジャーと提携せずに楽曲管理を行なっている会社を意味するものとして、この用語を使用している。つまり、自分でお金を徴収し、独自に会計業務などを行なっているところである。しかし、合衆国以外の地域については、メジャーと提携している場合もある。
作家=音楽出版社多くの作家が自前の音楽出版社を経営している。常に楽曲を依頼されているようなすでに名声を得ている作家や、自分の作品をレコーディングする作家=アーティストなどがよい例である。作品が他人によって録音されることがなさそうな作家=アーティストの場合(ジャズやヘヴィメタルなど)、金銭的な面を第一にする必要があるのであれば(またはそうしたいのであれば)、さっさと音楽出版社を手放すべきである。自分の作品が他人によって録音されるのであれば、比較的安く人を雇って楽曲管理を行なわせることができる。
少ない資本で音楽出版業に参加できるからといって、決して容易な商売というわけではない。まず、自分の音楽出版社を徹底的に調べ上げることが必要である。優良出版社かそうでないかによって、自分の財布の中身が大きく違ってくる。
たとえば、優れた音楽出版社であれば、各種のライセンスに対していくら請求すべきであるか、どこを探せばお金が埋もれているかがわかっている。出版社の人間が座ったままで本来やるべきことをやらないというだけで、作家のお金をなくしてしまう可能性だってあるのだ。
経験が浅くてもメジャーと提携している音楽出版社の方が、能力が劣っているのに独力でやろうとしている出版社よりはずっとましである。ただしメジャーは、自分のところの楽曲に対するのと同じ熱意を持って独立出版社の楽曲の面倒を見るわけではない。後ろの棚に積み上げられてしまう可能性もある。
その一方、メジャーと提携している優秀な独立出版社であれば、メジャーと直接契約した場合よりも良い待遇を得られることも多い。また、音楽出版社が作家に代わって(もちろん、自分のためでもある) “推進力”になれるくらいコネをたくさん持っている場合には、その作家が数ある切り札の中で埋もれてしまわないように働きかけることができる。
まず一番最初にすべきこと
何かを始めるためには、とにかく最初の一歩を踏み出さなくてはならない。
ここでは、ASCAPまたはBMIに加盟することがそれに当たる。なぜこれが一番競初かというと、すでに何名(または類似した名前)の会社が存在している場合、その名前を使用することを団体が認めないからである。
誤って別の会社に支払ってしまったりすると困るので、使用する名前にはなかなかうるさい。また、出版社側としても、実演ロイヤルティを徴収できない会社の名前でレーベル・コピーや楽譜を作ったり、著作権登録その他を行なうわけにはいかない。
申請書に記入し、選択肢として3つの名前を優先順位とともに記して団体に提出すると、加盟と名前の確保を行なうことができる。少なくとも、そのうちのいずれかの名前になることは確実なはずだ。出版社であると同時に作家でもあり、まだ加盟していない場合には、同時にふたつのうちどちらかの団体に加盟すべきである。作家として加盟するのと同じ団体に、出版社としても加盟する必要がある。
音楽出版社の加盟申請書はかなり直裁であり、会社の所有者、所在地といったことを書き連ねる。さらに、その出版社の楽曲カタログに収録されている全楽曲についての情報(作家、出版社、海外における契約、レコーディングなど)が求められ、それらの情報が団体のシステムに組み込まれることによって、その音楽出版社が確実にクレジットされる(つまり支払い対象になる) ようになる。加盟申請書は、ASCAPまたはBMIに連絡すると入手することができる。連絡先は次のとおりである。手続きはできるだけ早く始めた方がいいだろう。承認を得るまでに5週間ほどかかる。
次に、名前の決め方について触れておこう。平凡な名前であればあるほど、その名前が承認される可能性は少ない。“ヒット・ミュージック”のようなみえすいた名前は避けるべきだ。当たり前すぎて通らない。J.B.ミュージックのように頭文字だけの名前もクリアランスをとるのが難しいだろう。いくつか理由はあるが、私のクライアントは自分の子供や通りの名前にちなんだ出版社名にしている。こうした名前は決まって通るものだ。
事業の準備
法人名義を使用した会社にしない場合、次のステップはカリフォルニアでは“架空名声明” と呼ばれるものを届け出ることである。これを郡の記録係に届け出ると、新聞で公告される。ほとんどどの州でも仕組みは類似している。
この新聞公告は、あなたが自分のではない名前で事業を行なうことを世間に知らせ、それを合法化するものである。少なくともカリフォルニアでは、銀行口座を開くために、またそれ以上に重要なことだが、その名前で振り出された小切手を現金化するために、この声明が必要である。私が弁護士になりたての頃、どれほど電話の洪水に遭ってこれを学んだか、想像してみてほしい
著作権登録
次に、楽曲を出版社の名前で著作権局に登録する。自分の名前ですでに登録している場合には、出版社にそれらの楽曲を譲渡する譲渡証書を提出することが必要である。
団体への登録
最初の加盟時点で楽曲の登録が完了していない場合には、自分の全楽曲を実演権団体に登録する必要がある。団体から用紙を送ってもらえば、それに手続きの進め方が書いてあるのでわかるはずだ。作家としてか、または音楽出版社として登録する。両方で登録することはできない。
それが終わると、ようやく事業が始まる。レコード会社や他の使用者にライセンスを発行することもできるし、海外のサブパブリシャーとの契約や印刷出版契約などを結ぶこともできる。しかし、このような契約をなにも急いで交わす必要はないし、そもそもレコードをリリースしなければ、誰もそのような契約に興味を示さないだろう。事実、レコードが出なければ(または映画やテレビ番組で楽曲が使用されるなど、他の形で商品化されなければ)、団体もアーティストの加盟を認めないし、何をやろうとあまり意味はない。行くところもないのに着飾っているようなものである。