立って歌う?座って歌う?カラオケで、立って歌う人がいますね。理由を聞くと、立たないといい声が出ないからといいます。

立った姿勢が一番いい声が出る姿勢であることは事実です。まっすぐに立って、上半身とくにおなか、肩、首をリラックスさせ、うつむきや仰向きにならず、まっすぐ前に声を出すようにします。

うまくリラックスできれば、この姿勢で一番いい声が出ます。ただし、うまくリラックスできれば、です。リラックスするというのは結構、むずかしいことなんです。

プロの歌手でも、自分がもっともらくに声を出せるのはどういう姿勢かそれを見つけるために苦労しています。

歌やボイストレーニングの教室では…
つま先を60度に開きなさい
15センチほどかかとの間隔をあけなさい
背すじをまっすぐに
肩の力をぬきなさい
腕の力をぬきなさい
首はまっすぐ立てて
胸を張って
お尻の筋肉を引き締めなさい
あごを引きなさい、あごを突き出さない
うなじをのばしなさい
体重はやや前に、足の親指にかかるようにしなさい
視線を定めなさい(正面やや上を見なさい)
……などと指導します。

これらは大事なことです。ネコ背ではいい声は出ない。どこかに力がはいっていてもいい声は出ない。キョロキョロ視線を動かさないほうが声が安定する……それはたしかです。

しかしこれだけ注文をつけられて、さあ歌ってごらんといわれて、はたしてスンナリ声が出せますか。

とてもリラックスどころじゃない。背すじを「まっすぐ」にしようとするあまり、背中が板のようにこわばってしまう。肩の力をぬこうとして、逆に力がはいってしまう……。

結局で、全身ガチガチ。「リラックス、リラックス」と自分にいい続けてかえって硬くなるということもある。からだが硬くなるということは、筋肉が緊張するということです。

声帯をはじめ声を出すのも筋肉ですから、どこかの筋肉が緊張すると、それに引っ張られるかたちで発声のための筋肉も緊張するということになります。→声帯や声を出すメカニズムは複雑なようで簡単だった

考えてみると、立っているということは、からだのどこかの筋肉はかならず緊張しているということなんですね。仰向けにゴロンと寝転ぶ以外、ほんとうに全身をリラックスさせるということはできない。

じゃあ、寝転んで声を出してみることからはじめましょうか。
仰向けに寝て、枕をしないで声を出してみると、高い声や低い声が、立ったりすわったりしているときより、はるかにらくに出せるのがわかります。

その感覚がリラックスするらくに声が出るらくに声を出す方法をまずつかんでください。そしてこの感覚を立っているときも思い出してください。立ったとき忘れてしまっていたら、もう一度寝転んで声を出してみます。

また立ってやる。何回かくりかえしているうちに、だんだんリラックスして声を出すということがわかってきます。

「努力」するのではなく、自分を「型」にはめようとするのではなく、「型」から脱出すると自由になります。ちょっと支えてこれはからだの感覚なのです。

この感覚がわかってくると、からだのどこかが緊張していても、声を出す筋肉はリラックスさせておくことができるようになります。あごを引きすぎない、出しすぎないというのは大事なことですが、リラックスできれば自然にそうなります。

また、視線を定める(どこか一点を見るようにする)というのは、意識的にやっても、そう全身をこわばらせることはないでしょう。

ボイストレーニングをしていると、ひざがガクガクするほど足が疲れるとか、足の筋肉がつっぱってしまうという人がいます。

これは声を出したから疲れるのではなくて、足によぶんの力がはいっているためです。前にもいいましたが、声を出すということじたいは、それほどのエネルギーを消耗する運動ではありません。ただ、正しい姿勢を保とうなどとすると、すごいエネルギーを使うことになります。

カラオケの場合、立っても座っても声にそんなに変化はありません。というより、カラオケは立って歌うより腰かけて歌ったほうが、おおむねいい結果がでます。

理由は、腰かけた姿勢のほうが、上半身が安定しやすく、上半身が安定すると呼吸が安定するからです。

歌うときは、呼吸をおなかで支えます。「息がもれないようにするトレーニング」は、この感覚を身につけるためのものでした。

ところがこれは、立ってやるとけっこうむずかしい。息を止めると反射的におなかが引っ込む。おなかが引っ込むというのは、息を止めにくい状態です。また上体が安定しないから、足を突っ張って安定させようとする。

足の筋肉に力が入るので足が疲れ、上体はますます安定しにくくなる。息がもれないようにするトレーニングを腰かけてやったのはそういう理由からです。

腰かけて、しかも前傾姿勢にすると深呼吸したくてもできません。これを「イストレ」とよんでいます。イストレで上半身と呼吸を安定させるコツがつかめてから、立ってするトレーニングにすすむと、はじめて立った姿勢でらくに声が出せるようになります。

立って歌わないといい声が出ないというのはひとつの思い込みで、立つのは一種の身構えです。立ってリラックスするのではなく、立つことで自分に気合を入れたり、勢いをつけている。

どっかの筋肉にムリに力を入れて、声を出すにはむしろ不利な状況をつくり出しているんですね。案の定、そういう人が歌うばんになると、あごを突き出し、思いきり息を吸いこんでいる。

正しい姿勢をとればいい声が出せるのではない。いい声が出せる姿勢が、発声のうえでは「正しい姿勢」なのです。姿勢のことも忘れてください。

らくにしゃべったり歌ったりすることを心がけましょう。らくに声を出せる姿勢が、 つまり「正しい姿勢」なのだということを忘れないようにしましよう。


声を出すための姿勢
姿勢を気にしすぎて、背中を丸めていたり、体を反りすぎていたりすると、逆に声が出しにくくなってしまいます。ここでは、声を出しやすくする自然な姿勢の作り方を紹介しましょう。

まず、家にある木製のハンガーをひとつ用意します。つぎにハンガーを上下逆さまにして、くぼんでいる側を背中の腰あたりに当てましょう。最後に両ひじを後ろに回してハンガーの両端にかけるように持てば、背中が丸くならず、胸も反り過ぎないちょうど良い正しい姿勢になります。

それでは、この姿勢で声を出してみましょう。驚くほど声が出しやすくなっていることに気づきませんか。歌を歌っていて「声が出しづらいな」と感じたり、正しい姿勢が分からなくなったりしたら、ハンガーを使ってチェックし直してください。 まずは座ったままやってみて、慣れたら立ってやってみましょう。




リラックスというのは「くつろがせる、らくにさせる」ということですね。それはよけいな筋肉に力をいれない、自分にプレッシャーをかけないということです。

筋肉や頭を使うとき、もっとも大事なことは″リラックス″です。学校の体育の時間などで、先生はよく「リラックスしなさい、肩の力をぬきなさい」といいます。自分ではリラックスして肩の力をぬいたつもりなのに、「まだ力がはいってる」といわれ、「いったい、どうすりゃいいんだ」と思ったことはないですか?

体育の授業だけでなく、「リラックスしなさい」という言葉はいろんな場面でいわれます。そういわれてすぐに、 いわれたとおりリラックスできるなら、これはいいアドバイスです。しかし、どうやったらリラックスできるのか、わからないということのほうが多いのではありませんか。どうすればリラックスできるのでしょう?

人間が完全にリラックスできるのは、全身の力をぬいてあお向けに寝る姿勢です。
この姿勢では、四肢の筋肉だけでなく、心臓や血管や内臓も″リラックス″しています。
からだがリラックスすると、頭もリラックスして眠くなります。

余談ですが、病気のときお医者さんが「安静にしてなさい」というのは、「静かにしてなにもしないようにしていなさい」という意味ではありません。「横になっていなさい。そうすることで心臓をはじめ内臓に負担をかけないようにしなさい」ということなのです。

しかし「リラックスしなさい」といわれて、 いちいち横になってもいられませんね。
立ったりすわったりしている姿勢では、らくにしているようでも、かならずどこかの筋肉ははたらいています。

これはまあ、当然のことなんですが、中には立ったりすわったりするのには必要でない筋肉にまで力をいれる人がいます。緊張する場面ほどそうなります。

そういうとき声を出すと、すっとんきょうな声になったり、カスレたり、細い声になったり、逆に必要以上の大声になったりしがちです。

これは、声を出すのに使う筋肉(声帯だけではありません)まで緊張しているからです。緊張するというのは、だれでも意識してそうなるというのではなく、たいてい自然に緊張してしまうものですね。そして、その緊張した状態は、自分で「リラックスしよう」と考えても、なかなか思いどおりにいかないことが多いものです。

精神的緊張、肉体的緊張― 毎日の生活は、どんなにマイペースの人でも、多少とも緊張をともないます。

精神は緊張しているが肉体はリラックスしているというならいいのですが、いっしょに肉体的緊張をひきおこします。心臓がドキドキしたり、手がふるえたり、そして声がおかしくなったり。

声帯は、精神的なストレスの影響を一番うけやすい器官です。
いつもウラ声でしゃべっている人というのは、精神的ストレスのつよい人です。精神的緊張が声帯を緊張させ、つよいストレスを声帯に加えます。そのため声帯はつよく張り、高い声になります。その状態がずっと続いて、本人には意識されなくなっているのです。

舌も精神的ストレスの影響をつよくうけます。いわゆる「舌がこわばる」というということが起こります。舌の筋肉が緊張して、うまく動かなくなります。あるいは舌がちぢんでふとくなり、のどのアーチをふさいでしまいます。

そうなると、声はよく響かず、ゆたかなハリのある声は出ません。これも声帯の緊張とおなじで、その状態が、その人にとってあたりまえの状態になってしまっていることがあります。

精神的ストレスのつよい人は、声帯や舌の動きがよくないので、舌やくちびるやあごを大きく使ってしゃべることをしません。ほんの日先だけを使う、いってみればとても経済的なしゃべり方をします。そのために言葉が不明瞭になりがちで、自信のない感じを与えます。
逆に、自信がないと、そういうしゃべり方になります。

ボイストレーニングとは、自分の「ほんとうの声」を出すトレーニングです。
それはどういうことかというと、「ほんとうの声」を出すことを妨害しているものをとり除くことです。

さらにいいかえると、声を出す筋肉にくわえられている緊張(ストレス)をとり除くことです。
ボイストレーニングでもっともたいせつなことは、リラックスであるということが、おわかりいただけたと思います。また、「リラックスしなさい」と口でいうのはかんたんなことだけれど、そんなにかんたんにできることではないことも、おわかりいただけたでしょう。




私たちの日から出る「声」それは、声帯から出たものをそのまま聞いているのではありません。

声帯から出るのは、声というより、その原材料としての「音」というのが正しいでしょう(声帯から出る音は、「声」とはいわず、「声帯原音」といいます)。
声帯から出た原材料である「音」は、じつにいろいろな加工をされてはじめて「声」になるのです。

たとえば私たちはふつう、声を「ことば」として出します(悲鳴や、メロディーハミングはべつです)。「ことば」はいろいろな音(母音と子音)が組み合わさってできています。この母音や子音はどこでつくられるのでしょうか声帯を使わなくても会話をすることはできます。

「ささやさ」ですね。「ささやさ」は、吐く息を加工することで成り立っています。耳もとでささやけば、すべての言葉を、完全に正確に伝えることができます。けれど、ささやきではハミングはできません。

このことから、「ことば」をつくっているのは声帯とは別の部分らしいとわかります。そう、声帯は「ことば」を発声することはできません。

声帯が出すのは、ただの「音」。ただ「音」の高低は、声帯でつくられます。その音を、べつのところで加工して「ことば」にしている。声帯は、いわば「声」のもとをつくっているにすぎないのです。

その加工工場はどこにあるのかというと、のど(喉頭・咽頭)、口(舌、歯、口の中の空間)、鼻はいうにおよばず、あご、ほっぺた、頭蓋骨の大部分、気管、肺、おなか
…… つまり上半身のほとんどです。

声帯から出た「音」は、これらの部分に広がって、反響したり共鳴したりして複雑な響きをつくり出します。のどや鼻やほおや額の骨にはたくさんスキ間がありますが、そのスキ間の形や大きさによってもさまざまに複雑に変化します。声は、口からだけ出るのではなく、こうしたさまざまな部分からも出ているのです。
犯罪捜査で、犯人からかかってきた電話の声を分析して、その声紋から犯人を割り出すというのがありますね。

この声紋も、指紋と同様、一人としておなじ人はいないといわれます。「声」をつくる器官がこれだけ広い範囲にまたがっているわけですから、それも当然という気がします。

「声」を調べ、こういう声の特徴があらわれるためには、こういう骨格・筋肉でなくてはならないとさかのぼって、ある程度その人の顔立ちが推測できるそうです。

有名人のしゃべり方や歌い方をソックリにまねる「声帯模写」という芸がありますが、声だけでなく、身振りや表情、息づかいまで似せています。ああしないと似た声にならないそうです。

身振り、表情、息づかいを似せるということは、おなじようなからだ(筋肉)の使い方をするということです。

それはつまり、のどや舌の使い方、日の中の空間、呼吸のしかた……声を出すことにかかわっている部分をおなじにするということ。逆にいうと、からだのそうした部分をまねすると、似た声になるということです。



不自然な姿勢で発声すると、やはり声も不自然になります。音質がかたくなったり、高音域でのどが詰まり、低音も出しにくくなります。また、鼻から音が抜けてしまったり、低い音になってしまったりします。無理な姿勢のため、発声のときの筋肉が緊張して動かなかったり、共鳴や呼吸にまで影響を及ぼしたりするのです。

よい発声をするための半分は正しい呼吸、そのまた半分は正しい姿勢だと、よくいわれます。その、正しい姿勢というのがむずかしいのです。

正しい姿勢を一口でいいますと、上半身のリラックス、下半身の安定性ということになります。リラックスというのは、だらんと力を抜ききった無力状態ではなく、どこにもよけいな緊張が加わっていない状態。つまり、プラスでもマイナスでもないゼロの状態とでもいったらよいでしょうか。

安定した下半身というのも、足、腰に力を入れてコチコチにかたくなった状態とは違います。足首、ひざ、腰、など下半身の関節、骨格筋が、すぐ活動できるように準備されている状態とでもいったらよいと思います。

上半身とは、顔面筋(目、鼻、口、舌、頬部、前額部など)、下顎、のど(咽頭、喉頭)、首(頚部)、肩、胸部(前面背面)、上肢(腕ひじ、手首、手のひら)など、下半身とは、下肢(足掌、くるぶし、すね、ひざ、大腿部、腰まわり、下腹およびその背面)などをさします。

運動神経生理学の専門家の統計によると、古代から発達してきた人類の直立能力が、最近の日本人には退化の傾向にあるというのです。つまり、両足をきちんとそろえて立ったとき足にかかる重心の位置が、変化してきているそうです。

要約して説明しますと、足の裏の指先からかかとのうしろまでを100とし、中心点を50とすると、20年前の人ではかかとから47の位置(つまり中心からややうしろ)にあった重心が、現在では40の位置にまで後退してきたそうです。直立したときに重心がうしろに移動しているということは、うしろにひっくり返りやすいということになります。

全国の児童を比べてみたところ、山間部41、小都市40、大都市39と、大都市ほど機能衰退が顕著だったそうです。このまま推移すると、さらに20年後には33の位置まで後退し、自立直立は困難になるとの推論です。

人類は立ちあがるために、中足指節関節足関節、ひざ関節、股関節の順で進化してきました。それが生活環境の変化によって、逆に中足指節関節→足首→ひざ→腰と、弱化の傾向をたどっているわけです。

縄文人をその遺跡から推測すると、少し前かがみで、重心が足の中心より前にあり、動作も俊敏だったと思われます。

長い間無理な姿勢をつづけていると、発声障害も起こしかねません。小学校の音楽教師をしている方が小さな生徒に合わせて、長いこと無理な姿勢でピアノを教えていたため、声帯の片側に炎症を起こすという発声障害が生じていました。

よく、のどの力を抜けといいます。これは余分な力を入れず、発声の際に体の安定がよく、どこにも極端に力がかからない自然体の立ちかたによってできる状態ではないかと思います。
のどの余分な力が抜けるような姿勢が理想なのでしょう。

よい姿勢には4つの要素があるといっています。
①自然であること。
②無理がなくてらくであること。
③外見が立派であること。
④疲れないこと。


発声の基本トレーニングの立位のリラックスを意識してください。すなわち両足はほぼ肩幅に開き、ひざはゆるめて自然に立ちます。
立位での動きは足首、ひざ、股関節などを柔軟に使えるように保ち、さらに仙腸冊関節(脊椎の仙骨と骨盤の腸骨が十字形に交差するあたり)を中心に、骨盤から下半身を安定させた姿勢で。

顔面筋(表情筋)、下顎、舌、頚部、肩、胸部などの上半身はリラックスした状態が必要です。発声時(歌鴫時)の吸気、呼気は常にこの安定した下半身の上で、体位の移動を自由に連動させることが大切です。



発声練習のとき、とても大切な要素に姿勢があります。姿勢が悪くなると、どうしても声は小さくなってしまいます。正しい姿勢というのは、真横から見ると背骨がS字型のようになっています。ところが、C字型のように猫背になると気管支、腹筋すべてに負担がかかって、筋肉が凝ってしまい正常な働きをしなくなってしまうのです。つまり、声量や肺活量が落ちて、途切れ途切れの張りのない歌い方になってしまうわけです。声量のない人の多くは、肩こりが原因ということもあります。

原因を突き詰めていけば、最終的には姿勢が悪いという結論に達してしまうのが大半でしょう。
自分の姿勢が正しいかどうかはなかなかわかりづらいことですが、まずは自分の姿勢チェックをしてみましょう

以下の手順で姿勢をチェックしてみてください。
まず、全身が映る鏡の前に(横向きに)立って、目を閉じます。そのまま1分間目を閉じて自然体で立ち続けます。そして、静かに目を開きましょう。その姿が自分の姿勢というわけです。どうですか、美しい直立姿勢になっていますか? なぜ、目を閉じるかというと、目を開いていると無意識に姿勢を矯正してしまうからで、目を閉じることによって正確な自分の姿勢を引き出すことができるのです。

次は、歌うための正しい姿勢のつくり方です。
以下の手順で試してください。
①壁を背中にして直立してみましょう。
②後頭部を壁につけます。
③肩を壁につけます。
④お尻を壁につけます。
⑤かかとを壁につけます。


おそらく、最初はまっすぐに立っていられないでしょう。しかし、鏡の前で毎日1分間この姿勢を維持するよう心がけてください。できれば、その姿勢のまま声を出してみましょう。姿勢の矯正ができると同時に発声の練習にもなります。



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